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井上靖著 『闘牛』『通夜の客』 新潮社

猟銃・闘牛 (新潮文庫)

井上 靖 / 新潮社



『闘牛』 社運を賭した闘牛大会の実現に奔走する中年の新聞記者の情熱と、その行動の裏側にひそむ孤独な心情を、敗戦直後の混乱した世相のなかに描く。

第22回芥川賞受賞作。井上作品は、「しろばんば」「あすなろ物語」「敦煌」「天平の甍」などが小・中学では必ず夏休みの必読図書になるので読んでいましたが、『猟銃』とこの二作は未読でした。そのわりに『化石』とか『欅の木』などを中学時代に読んでました。
芥川賞では『猟銃』と共に候補に残ったそうですが、私はやはり受賞作の今作のほうが面白く読みました。
95年発行の全集で読みましたが重いので専ら家読み。表紙のコーティングが剥がれていて、枕元や部屋のあちこちにぽろぽろ。

戦後間もないまだ娯楽も少ない時代に、宇和島の名物、闘牛を開催するために奔走する記者の物語ですが、横組みでインテリ層向けという夕刊紙を創刊し各種イベントをプロデュースした編集長が実際に企画した史実に基づく小説なのだそうです。
バブルでもない戦後間もない時代にかなりな賭けであるイベントに数々の問題が発生していきます。
怪しい山師が次々現れるし、会場となる球場、宿舎、牛舎の手配とその都度緊張と危機感が走ります。
しかも想定外に予算もどんどん増えてゆく。新興の青年実業家が現れて宣伝効果を狙って近づいて来たり。やぁこれは危ないんじゃなの?とはらはらどきどきです。
挙句に当日は雨。三日間の開催期間中2日間雨で中止を余儀なくされる。最終日も見込んでいたほどには入らない。多大な損失を出して失敗に終わった競技場に佇む編集長・津上。
彼の愛人だけが、危険を承知で突き進む男の真情を見抜いている・・・というラストは敗戦という時代背景を反映させたということなんでしょう。

『通夜の客』のほうはその前に読みましたが、「猟銃」同様に哀しい女の出すことのない手紙と回想で進んでいきます。
土砂降りの山道を両手に荷物を持って遠い街の灯りを目指して行く、なんて描写は切なすぎて。
夜道で転んで稲光を頼りに散らばった思い出の品を拾うなんて、哀れすぎて。

三作とも、女が掴もうとして掴みきれない男の影を追い続ける。
男と女の距離があまりに遠い。

by august22moon | 2011-09-26 22:52 | 読書 | Comments(0)

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