フランソワ・ジラール演出 『猟銃』 WOWOW放映

d0109373_1735951.jpg井上靖の『猟銃』をカナダのフランソワ・ジラールが演出。
10月のPARCO上演が先日のWOWOWでもう放映とは随分早いですね。
中谷美紀さんが薔子、みどり、彩子の3人を演じ分け、ストーリーテラーとなる手紙を受け取った作家役で池田成志さんのナレーションが冒頭のみ流れます。
三杉役をロドリーグ・プロトーという俳優さんが演じているのですが、中谷さんの背後の高い位置にいて、マイムだけで三杉という存在を表しています。
この3人の演者の置き方が演出家の原作の解釈となっています。
作家が見かけた猟銃を持った男も、本人だと名乗る男も、送られてきた手紙も、3人の女の存在自体すらも、すべてが事実なのか幻想なのか判然とさせず、ただ女の情念というものだけを存在させているようです。

女優のまったくの一人芝居とナレーションだけでも成り立つ舞台の、三杉の存在のさせ方がとても効果的。
紗幕を掛けたかのようにぼんやり霞ませてスローモーションで演じさせ、女3人の内に存在するひとりの共通した男を、象徴のように影のように配置しています。
小説の冒頭文章が投影されているのも最初は不要に思われましたが、三杉の位置に視線が集中しないようにさせているようなのが尚更効果的に感じました。
外国人俳優さんなので、日本人観客である私には幻想感がさらに増して見えました。
日本人だと人格まで見えて生々しくなっちゃうんじゃないかと。
大柄で猟銃を構えたところも様になっていて。いかにも実業家らしい風情。
逆にカナダ上演では外国人観客にはそれが感じられないのでしょうから、それが演出意図ではないでしょう。
女3人の行き場の無い苦しみの劇性が際立ちました。

この小説の中で最も悲劇的で恐ろしい場面。
病床の彩子がみどりを迎えるのにわざわざ三杉との逢瀬で着た「お納戸色の羽織り」を掛けて見せる場面は、彩子がゆっくりうっとりと死に装束に気付けた白い着物に納戸色のアザミの花を投影させ、実際に出さなかったのも想像を掻き立てさせました。

カメラアングルも幻想的な感じを増幅。
濡れたスカートの裾から垂れる雫、水から気だるく引き上がる足、ふと灯るマッチの炎、板が捲れて敷き詰められた小石が落ちてゆくようす、ほつれ髪の掛る首筋などがアップになります。
三杉の映像との重ね具合もよかった。
こうして見ると、とても映像的な舞台美術だったようにみえました。
薔子は睡蓮池の中を彷徨わせ、みどりは水が引いた河原のような小石の上を歩かせるという演出もそれぞれの女の心象風景になって、美しい舞台でした。

中谷さんがとにかく美しい。
どんなに狂っても乱れることは無く美しく立っていることだけは失わなかった女たちに合っていました。
上演された頃に感想をいくつか読みましたが、台詞回しの不安定さを指摘する方が多かったです。
イントネーションでは私も気になる単語がありました。台詞を噛んでしまったことで役者さんの技量を問うのも酷な気もしますが、どうしても集中を切らされて残念な思いをしてしまうんですよね。
技量としてはもっと優れた女優さんもいるのでしょうが、女の情念や業を鬼気迫るような演技で見せられるより好きです。

Commented at 2012-01-17 19:13
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by august22moon at 2012-01-17 21:09
鍵コメ様、この舞台を実際に観られたとは羨ましい。
ほんとうに美しい舞台でしたね。
原作の気品を損なっていませんね。

・・・ところで。
本当にびっくりですね。なんという偶然でしょう(笑)
by august22moon | 2012-01-16 23:29 | 観劇 | Comments(2)

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