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by august22

緒方明監督作 『独立少年合唱団』 WOWOW放映

d0109373_1419097.jpg2000年作品。ベルリン映画祭でアルフレード・バウアー賞受賞作。
緒方氏は『いつか読書する日』の監督さんなんですね。
お取り寄せもできるのに、深夜WOWOW放映で初めて見ました。

70年安保時代。長閑な田舎にある全寮制の私立中学「独立学院」が舞台。
ここのグリークラブの少年たちの日々とその指導顧問で牧師の清野の姿が描かれます。
少年たちは、善行運動として田植えの手伝いしたり、お寺の掃除したりします。
でも苗を真っ直ぐ植えられなかったり、お寺の石段昇るおばあさんの荷物を無理やり持って、おばあさん背負ったもののよろけたり。サナトリウムへ慰問に行っても流行歌にしてなんて言われたり。立ち入り禁止の池に行って危うく溺れかかったり。
揺れ動く時期の少年たちの日々が、笑ましく描かれます。
康夫役の藤間宇宙さんは「とうま」という読みになっていましたが調べるとやはり藤間家の方なのね。
生徒の中に渡部豪太さん発見。

香川照之さんがほんとに素晴らしくて。
演じる清野は、吃音の転入生・道夫(伊藤敦史)に「歌ってる時は、君はどもってないぞ。どうしてなんだろ?」とグリークラブへ入ることを薦めるんですが、この「どうしてなんだろ?」の「ろ」が消えそうな小声になっていて包容力が顕れていました。
無私無欲に見えて、でもなにか過去を背負っているであろう雰囲気が秀逸。指揮も巧いったら。

清野が自力で教会を建てる為に不要材木を譲って貰っている木工所で、聖書の朗読会を催しているところへ女性が訪ねて来る。
彼女は連続交番爆破事件で指名手配中の左翼活動家で、清野も実は元活動家だったんですね。
匿って欲しいと頼って来たんですが、清野は「連続交番爆破事件のニュースはここまで届いている」と拒絶する。
死んだふりしてる偽善者だと転向を責められるも、「自分の手であの戦争も裁かなかった。そんな国で何も起こるわけないんだよ。何も起こらないで、ゆっくり発狂していくんだよ。」と絶望を説きます。

ところが勝手に清野の部屋に上がり込んでいて、生徒にみつかるんですが、この後の場面がよかったです。
部屋の扉をゆっくり開けて女と生徒が鉢合わせしていたことを知り、ゆっくり入り、ぴしゃりと急いで閉めるその速さに清野の意思が見えました。

彼女を追い返した後、清野はコンクール出場曲にロシア内戦の兵士を歌った「ポーリュシカ・ポーレ」を選び、この歌の背景を生徒たちに勉強させる。
ここでは清野がなぜこの曲を選んだか、真意が掘り下げられていません。惜別なのか郷愁なのか。


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さてさて。木工所の聖書朗読会にいよいよ公安刑事の登場です。
横田さんの先に立って入って来た先輩刑事役は青山達三さんでした。
なんか舞台では頓狂なお声の芝居ばかり見ていたのですが、ここでは海千山千と一目で判るベテラン刑事ぶりです。
横田さんも、ずかずかとベンチ跨いで入り込んで来るふてぶてしさや、ぎらぎらしている目つき、逃げる女を追いかける走り方がまさに刑事。長距離全力疾走は、貴重な場面です。フォームもきれいでした。
女の自爆で重症を負ったらしい呻きと叫びの混じった声もリアルでした。
初めて読む聖書のたどたどしい読み方も巧い。
逃げる女が立て掛けてある材木を倒すんですが、この一連の動きがもたついて見えまして。
まあこれは女優さんの問題ですが。
材木どかして追うのに横田さんわざと手間取って女との距離取ってあげているようにも見えちゃいました・・・。
清野が何度も目配せしてんのにキョトンとしてるし、所持してたダイナマイトに点火しといて狼狽えるってどうよ投げて逃げればと、ちょっと呆れましたけど。
理論武装は出来ていても実戦が甘い、それもまたリアルなのかも。

清野の過去を知ってしまった上にロシア革命史など学んだ後の夏休みの東京で、バリ封や闘争のニュース見て造反有理なんて言葉を知ってすっかり傾倒してしまった康夫が、合唱の持つ意味を変えようとしてしまう。
清野は「革命なんて起きない。嘘っぱちなんだ。みんな行き詰ってるだけなんだ」。自分は「そうゆうものに絶望したからここに居る」。ポーリュシカ・ポーレも革命の唄ではない。「闘うために歌うのではない。意味が無いから歌はいいんだ」と諭し、ここで清野の挫折と希望が生徒たちに初めて表されます。
感情を爆発させ自分の過ちを吐き出してしまった後、椅子に崩れ落ちる時の表情もよかった。
力のある演技でした。

で、事情すべて呑みこんでいるであろう校長が岡本喜八氏で、只者じゃない雰囲気。
ただ台詞が聞きとれなかったです。

キャスティングに恵まれて深みは出ましたが、
ちょっと一部トーンがちぐはぐな印象を受けました。

「立夏」とか「大暑」とか二十四節気の文字が出て、里山の季節の移り代わりが美しかったです。

by august22moon | 2012-02-10 23:35 | 映画 | Comments(0)