出会った本、映画の感想。日々のこと。

by august22

セミフ・カプランオール監督作 『蜂蜜』 WOWOW放映

d0109373_17484486.jpgベルリン映画祭で金熊賞受賞作。
子供目線の映画ということでイラン映画に近い感じ。
BGMもなく、耳に届く音だけ。
主演のユスフ役のボラ君の可愛いいこと。
吃音のコンプレックスで失語症になった少年の目に写る日常が淡々と描かれているんですが、この映像がまた雄弁で素晴らしい。

哀しいことも起こるけど、人生はそう甘く温かいことばかりじゃないから。

見られてよかったです。








トルコの山岳地帯が舞台。
森の中の家や学校、草原の斜面、石橋の掛る渓流と、観光地ではないけれど豊かで美しい自然。
原生林の緑の陰影、ハニーコームの白、ミルクのこっくりした白、女の子が髪に結んだリボンの純白、ブランケットや敷物の暖かい赤やオレンジ色、おばあちゃん手編みのセーターのレンガ色、ご褒美に貰うバッジの真紅、そして金色の蜂蜜。
雨の多い地域らしく原生林にかかる霧。
水に映る満月。それをまたユスフ君が掬おうとするんです。
そしてフェルメールの光が射し込む部屋。

お家は山荘みたいな造り。決して裕福ではなさそうですがテーブルウエアはきちんとしたものを使っているようだし。
クッションやカーテンも美しい色合いだし。
ユスフ君の通学リュックはくたびれてないし。
侘しさは決して感じられない家庭です。


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子供の失語症という問題はあれど、ある日学校で朗々と詩を朗読する女の子に魅了された後日、日めくりの文字を読めたりするし、いつか治るだろうという期待も持たせます。
まだ治らぬままの朗読に、担任教師がちゃんと心を砕いていてよくできましたみんな拍手してと優秀バッジくれるし。
興味深いのは、3部作中の成長したユスフにも描かれているようですが、父親への思慕と母親へのそれとの違い。
父親とは無声音でとはいえ会話が出来るのに、母親とは出来ない。
母親がユスフを膝に乗せて夢の話を始めると、途中で膝から降りてしまうし。
キッチンに立つ母親の素足や揺れるスカートを微笑んで見つめたり。
父親から諭され男として家を守らなきゃという意識に目覚めるし。

ん~、このユスフ君がおとなの男で苦労したりするところ見たくないので他2作は見ないかも、です。


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ラストはまたはっきりさせない観客に委ねる終わり方。
父親は亡くなったのかそれとも怪我をして発見されたのか不明なまま。
(黒崖なんていかにも危険そうな名称の場所だから、こうなるとは思ったんですよね)

折角バッジ貰ったこと知らせようと走って帰ったら、只ならぬ様子に父の消息を悟ったユスフ君は、小鳥を追って森に入って黒々とした大木の根元に寄りかかって眠るんですが、その姿がなにか厳かな儀式のよう。
このまま「昇天祭」伏線で聖ガブリエルがばっさばっさと翼はためかせて舞い降りてきて少年を連れ去る超ファンタジックな唐突ラストでも許せちゃうほど、静謐で柔らかな優しさのある正に「はちみつ」な映画でした。

by august22moon | 2012-02-21 23:37 | 映画 | Comments(0)