2012年 05月 27日
伊坂幸太郎著 『重力ピエロ』 新潮社
新刊が3月に出てますのにね、今頃読みました。
『アヒルと鴨~』の叙述トリックも面白かったですが、こちらも面白かったです。
会話の運びは軽妙ですが、根底には重苦しいテーマが在り、被害者の真情について新たなアプローチが成されたお話し。
犯罪被害者本人である母親が既に亡くなっている設定なので、この特異な決断に至る部分については明かされないまま泉水の記憶から想像するしかありません。
逡巡が在ったのか葛藤はなかったのか。
これから生きて行く中でほんとうにその覚悟は揺らがないという自信があったのか。
でも、むしろこの特異な決断に説得力を持たせるのは難しいから、想像するしかない展開が正解だったかも。
確か同じ被害者女性のお話しがコミックの『人間交差点』にあって、やはりこの被害者女性は出産を決意するんでした。颯爽と逞しく。
達観というか超越というかな父親のほうが、尋常ではない決断と覚悟を要された筈。
春本人にしたら、元凶である男を抹殺することしか自分の血を浄化させることはできないと行きつくのは当然。理解できる。
腫れものに触るように生きて来た兄・泉水が、最後に弟・春を救おうとするのは、家族としては同情できる行為です。
「最強の家族だ」とはこの家族にとっては深淵なる名言。
生まれながらにして原罪を抱えたというところは、『氷点』を思い出しました。
スペシャルゲストな気配で現れる人物に、多分前作の登場人物なんだろうなと推察しつつ、後で『オーデュポン~』の伊藤と分かったり。
黒澤も勿論登場。