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セミフ・カプランオール監督作 『卵』 WOWOW放映

セミフ・カプランオール監督作 『卵』 WOWOW放映_d0109373_2182231.jpg 『卵』『ミルク』『蜂蜜』のユスフ三部作の第一作、中年に差し掛かったユスフの物語。
小学生時代のユスフ君が可愛かったので、おとなの時代の作品はいいかなと思っていたのに、見てしまいました。
トルコという馴染みのない国の風土が見られるという楽しみもありました。
トルコ式チャイというのも初めて見たかも。ミルクは入らないんですね。しかもみんなグラスが同じみたいなのも面白い。飲んでみたい。

子供の情景を描いた『蜂蜜』と違って、
現ともつかぬ詩人の夢や、実際の風景なのに印象が盛り込まれたかのような幻想的な場面もあって、ここに説明的展開がないぶん、随分と複雑な後味を残しました。







冒頭、ユスフの母が霧の草原を貫く一本道を歩いて来て、そのまま幻の城ように聳える針葉樹の一群のなかへ消えて行く光景が、特に印象的です。
一目でそれがこの女性(ユスフの母)の死を表しているのが判りました。
青年時代を描いた『ミルク』は見てないので、ここに至る経緯は分からないのですが、カメラ前で立ち止まって左右を見渡す不安な表情の中に、彼女の苦悩とか覚悟が見てとれます。

セミフ・カプランオール監督作 『卵』 WOWOW放映_d0109373_12362294.jpg



詩人となったおとなのユスフは、古書店を経営していて、穏やかで大らかな男になっていました。
埋葬の手伝いに当然のように賃金要求する子に微笑みながらお金あげて、後で返すと言ってきても「取っておきなさい」。
ボケちゃった親戚のおばあちゃんにもニコニコして話を聞いて、ジャムでもチーズでもなんでも持っていきなさいと言われそっと上着のポケットに代金忍ばせたり。
電気屋の青年が実は母親の世話をしてくれていた娘の恋人で、嫉妬からバンパー壊したり窓ガラス割ったりしたのも怒りもせず鷹揚に構えている。
生贄の羊を買いに行くのにも後を追って来た姿に苦笑して、でも近道を行くことにしたといってその青年を撒いたり。

説明のない展開でも、真情が明らかに汲み取れる場面もあります。
久し振りに帰る故郷の違和感と懐かしい再会の喜びがないまぜになる複雑な帰郷とか、
故郷からの電話にも事態は理解しても逡巡があるのにもそれは表されます。
ユスフの母の世話をしてくれていた遠縁の女性アイラは、大学進学を希望する現代女性でありながら田舎で生活する者らしく古い風習も蔑にしない。
おかあさんは願掛けしてたから生贄捧げなきゃと箴言するんですが、何を願ってだったのか謎のまま。
でも、ユスフとこのアイラの結婚を願ってたのではと匂わせます。
アイラも知ってて本人前にしては言えないだけみたい。
部屋のヒューズが飛んだことにすら儀式やらないせいよなんて言われても一蹴していたユスフも、さすがに井戸に落ちる夢や父親譲りなのか発作を起したところ聞こえるはずのない弔いの唄が聞こえてきたりするに及んで、母の遺言に従って羊の生贄を捧げるようになります。
これは、都会に生きる者とはいえ感性の鋭い詩人らしい。

淡々と葬儀や風習や相続手続きを済ませたのに、街へ帰る途中の暗闇の中で突然現れたアナトリアンシェパードに飛びかかられ吠えられて、それが切っ掛けとなったかのように悲しみが湧きあがり嗚咽を漏らしますが、この獰猛な犬の出現もまた夢なのか現なのか・・・。

これが故郷の家に戻る切っ掛けとなり、アイラは笑顔で歓迎し、双方で照れ笑いとも安堵の笑みとも取れる笑顔で朝食を摂る場面で幕。
このあと、暗転してエンドロール。
そのバックにふたりが使うフォークやお皿が触れ合う音が微かに聞こえて。
それはふたりの未来を想像させてなにより雄弁。

セミフ・カプランオール監督作 『卵』 WOWOW放映_d0109373_12371245.jpg

by august22moon | 2012-05-29 23:00 | 映画 | Comments(0)

出会った本、映画の感想。日々のこと。


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