J・スタインベック著 『真珠』 角川文庫

d0109373_16341850.jpg【あらすじ】
真珠採りのメキシコ原住インディアンの貧しい無知な若夫婦が採った大粒の真珠は、生活の安定と子供の教育を保証しなかったばかりでなく、盗賊に襲われる不安な日夜の果てに愛児まで奪う。
メキシコの民話を基に書かれた47年の作品。











先日見たトルコ映画『卵』の中でこの本が出てきましたので、図書館で借りてきて読んでみました。
主人公ユスフの以前付き合っていた女性が教師で、生徒たちにこの本について講義していて全編読むことを薦めている場面があったのでした。
スタインベックは教科書で『赤い仔馬』しか知らず、92年の再映画化(ゲイリー・シニーズとジョン・マルコビッチ主演)を切っ掛けに『二十日鼠と人間』を読んだだけでした。
その作品は演劇を意識して創作されたというとおり小気味良い文体が読みやすい作品でした。

今作は、昭和32年初版の訳文なので、多少違和感のある日本語にもなっていました。
読めない漢字もありまして。
それでも随所にみられる詩的な表現が、この悲劇に幾許かの美しい面影を残します。

「キーノのうちにはかもしれぬ真珠のひめやかなメロディーが、ふいに、冴えた美しい音色で朗々と、力づよく、甘美に、生々と、充実して誇らしげに鳴り渡った。巨きな真珠の面に、彼は夢が結ぶのを覚えた」

「陽は彼らの背後にあって、彼らの長い影はまえへまえへと広がってゆくので、彼らは彼らとともにふたつの暗い塔を運んでゆくように見えた」

貧しき労働者の元にまさに‘出現’した巨大な真珠は、妻フアナの直感どおり一家に不幸を齎してしまいます。
子供と家庭の安全が、裕福になるよりも先決と願う母性
それを制して、これで貧しさから脱却するのだと戦いに挑む父性。
でもそれが招いた結果の代償はあまりにも大きい。
貧しいのは彼らだけではないから。
当たり前の幸福を希求する者たちが、束の間夢を見ることも許されないかのような救われない結末でしたが、読後感はなぜか清々しいのが不思議。


本・読書
by august22moon | 2012-06-08 23:00 | 読書 | Comments(0)