2012年 09月 18日
貴志祐介著 『悪の教典』上・下 文藝春秋
【あらすじ】
不良生徒やモンスターペアレント、集団カンニングに、淫行教師などの問題を抱える東京都町田市の私立高校につとめる蓮実聖司は、有能で人気者だが裏では自分に都合の悪い人間を次々と殺害していくサイコパスであり、一部の生徒から疑われ始めていた。
文化祭の前日、蓮実は邪魔になった女生徒を自殺にみせかけて始末しようとするが、手順が狂い殺人の嫌疑がかかりそうになる。それを覆い隠すため文化祭の準備で校舎に泊り込んでいたクラスの生徒全員を同僚の教師の仕業に見せかけて散弾銃で皆殺しにしようとする。こうして一夜の血塗れの大惨劇が始まった。
著者の本は『青の炎』『黒い家』を読みました。
今作は直木賞候補作・吉川英治文学新人賞候補作。このミス1位で本屋大賞は7位。
主人公の高校教師・蓮実は容姿端麗頭脳明晰なサイコパスという設定。ピカレスクノベルですが、もうめちゃくちゃ人が殺されて、めちゃくちゃです。
復讐の為という殺人も過去にありますが、邪魔者は排除するというそれだけの理由なので、疑惑を持った者や目撃者など、どんどん排除しなきゃならない対象が増えていきます。
そうゆう小説は多々ありますが、ここでは遂に担任クラス2年4組40名全員抹殺しなくてなならなくなるんですね。多いったら・・・。
人気教師が、その優しい物腰のまま「みんなもうちょっと下がって」なんて言いながら、情け容赦なく殺してゆく。クラス名簿確認して出席取りならぬ殺した人数カウントしながら。その残虐非道さはミロヒトガゴミノヨウダーのムスカみたい。
散弾銃を撃ちまくって近隣住民に聞こえないのかという疑問もありますが、作中に引用される「津山三十人殺し」でも、銃声は聞こえなかった村民が多かったようですし。
住宅からどれだけ校舎が離れている設定か分からないんでなんとも言えませんね。
蓮実はIQも高いので沈着冷静な行動なのに、見落とし部分があるのも疑問なところ。
クラスのコたちがいるとこで耳打ちしたり、花壇の竹棒とか、人目の多い居酒屋とか。避難用降下袋とか。
蓮実本人もなにか釈然としないままでしたが。天網恢恢疎にして・・・ということですね。
しかし、それすら逃れる手を持っていたとは。まだ続いたりしてね。
舞台となっているのが、社会のコミュニティーでなく「学校」という設定に特殊性があります。
学校というのは生徒の友人関係だけでなく、教師間の人間関係が最も枢要な位置を占めていて、閉鎖的な組織であるのが表されています。
今作は友人から村上龍が好きなら面白く読めるんじゃない?と薦められたんですが。
ん~。龍さんの作品もいっぱいひと殺されるけど、それは目的が在るんですよね。生き残って向かわなくてはならない目的がある。ぜったい行政と経済問題絡むし。
『半島を出よ』で、不良少年グループが北朝鮮軍が拠点としているホテルに侵入して爆弾仕掛けて脱出するのに軍との攻防があるんですが。それは侵略者たちから故郷を守るという大義があったし。双方武装してましたし。
でも、蓮実に一方的に殺される生徒ばかりではなく、武器が無いなりに特技を活かして応戦する生徒も出て来るので、どの生徒が生き残るか、猟銃相手に誰が勝てるのかというあたりの展開は面白かったです。
龍さんならもっと応戦させたでしょうね。ほんとに高校生かい?ってくらいに。
それにしても、AEDにそんな機能があったなんて知りませんでした。
「アクノキョウテン」のオチはまったく不要じゃありません?意図不明ですわ。