2013年 04月 13日
ライアル・ワトソン著作 『シークレット・ライフ』 筑摩書房刊
古から続く風習、現代の科学では解明できない現象、事物に宿る生命・・・
「生命科学者」がその広い視野で見つめた「博物学」。
膨大な資料から紹介される古今東西の事物と人の不思議な関わりは、もちろん日本のものも出て来ます。
氏は日本通ですしね。
もう、とにかく本書の情報が膨大なのですが、さらりと取り上げているので、詳細を調べたりして読了に時間が掛ってしまいました。
特に印象的なのは、「心を動かす物」。
無機物が呼び起こす感情についての考察で、鐘の音について述べられているんですが。
世界には、「世界最大といわれる鐘」が、12個もあるそうで。
史上五番目の大鐘は「その大きさに遜色のない資質をそなえた名鐘」と、京都・知恩院の鐘を挙げています。
仰向けに親綱を持った僧侶が撞木を打つ、あれですね。
その音色について「ある西欧人」が、
「想像を絶するほど神秘的、戦慄的かつ厳粛」で「空へ突き抜けることはせず、あくまで地面を這うように」伝わり「あてどなくさまようそれはあまりにもの悲しく、あまりに荒涼として」「嗚咽のように響く」・・・。
と絶賛した文章を紹介しています。
生物には無論、その生命がひとに与える影響がある。
イギリスやアメリカには、不安になった時や自信を喪失した時に「Touch Wood」というお呪いもあるそうです。
サンザシやハシバミ、ヤナギなどの神聖な樹木が望ましいそうですが、木ならなんでもいいから触るといいと言われているそうで、それが自然界との交感呪術であると。
縁起担ぎというのもありますからね。
不思議なことに、無機物にもまるで意思を持ったかのような行動をとるものもある。
ダイヤ、車、人形、石 ・・・コンピューターも例外ではないと。
数々の超常現象を取り上げているところは、「百匹目の猿」や「テニスボールの少女」のように、賛否あるところでしょう。
今作でも、涙を流すマリア像の目撃談なども出て来ます。
それらは何らかの自然現象であったり思い込みの強さだったりするのかもしれません。
しかしワトソン氏の自然界やひとの心の奥深くを見つめようとする広い視野に、大らかに楽しめる「博物誌」でした。
TVで放映された「風の博物誌」でワトソン氏が、故郷でもある南アフリカの大自然を、「Breathless Beautiful」と讃えた、あの穏やかな声を思い出しながら読みました。