ピーター・ウィアー監督作 『ウェイバック 脱出6500km』 wowow放映

d0109373_0342076.jpg秀作でした。
第2次大戦中シベリアの収容所から脱出し、バイカル湖を目指しモンゴルへ逃げようとするも共産圏であると知り、遥かインドを目指し4000マイルを踏破した実話が基になった作品。

シベリアを脱出することなど容易かったと思わせる尚一層過酷な岩山や灼熱のゴビ砂漠を歩き続ける彼ら。
追い散らした狼同様に死肉に取りつくさまや、わずかな水たまりの水に飛び付くさまに、その過酷さを表現しているところなどは特に、吉村昭作品の「間宮林蔵」や「花渡る海」などを思わせる、寡黙で鎮静な目がありました。

途中で出会った薄幸の少女イリーナ(シアーシャ・ローナン)を助けて同行してからの彼らの表情や雰囲気の変化の描き方が秀逸。
最初のうちは足手まといになると懸念していた男たちも、砂漠で遂に力尽きるイリーナを見守る瞳のなんと慈悲と慈愛に満ちたことか。
最初は警戒していたエド・ハリス演じるミスターが最後にかけた「よくがんばった」の言葉も限りなく優しい。

行程のなかで、運良くアオシスを見つけたり、食糧も尽きた時に牛がぬかるみに嵌っていたりしても、辿り着いたチベットやインドの人々が素性も解らぬ異国の旅人を温かく迎えても、驚きながらもどこか安堵してしまうのでした。
さらに過酷なヒマラヤ越えを敢えて映さない巧妙さもよかったです。

ジム・スタージェス演じるポーランド人のヤヌシュが、故郷を目指す理由が、ナチスに拷問に遭い心ならずも夫を共産党批判の政治犯であると証言させられたのを許すためだというのが、胸を打ちます。
疲労と餓えで朦朧となった時に現れる我が家の玄関。
そのドア横の棚に置かれた石にカメラが寄っていってはいつもそこで夢から覚めるように幻覚が消えているんですが、インドに到着した後に再びその幻の映像が表れてドア横の石にカメラが寄っていきます。
すっと手が伸びて、石の置かれた棚の下へ潜りそこから鍵を取り出します。
夫がいつ帰ってきても部屋へ入れるようにずっと変えなかった玄関の鍵の場所。
既に年老いてしまった妻のもとに遂に戻ったヤヌシュに出兵した若き日の姿が重なります。
老いた妻にも一瞬若き日の姿が被ります。苦悩のまま老いたような妻を抱きしめる老いたヤヌシュ。
言葉もなく、ただ抱き合うだけ。

物語の中に入り込むとはこうゆうことだという作品でした。
長さを感じさせず、見応えがありました。


映画
by august22moon | 2013-11-04 01:02 | 映画 | Comments(0)