山田洋次監督作 『小さいおうち』

d0109373_20592599.jpg黒木華さんのタキがとってもよかったです。
背がけっこう高く見えましたが、常に視線を伏せ気味にしキビキビと、でも控えめに動くようすは、ベテラン演出家の指導の賜物か、昭和初期の家に使える者の静かなる佇まいが見事でした。
物資のない時代でも手を尽くしたお料理はまったく描かれませんでちょっと残念。

松たか子さんの時子奥さまは適役。
母となってもお嬢様気質が抜けていないところや品のよい所作・・・。
品格って松さん生まれながらに持っていますから。
初めて板倉を訪ねて行くために着物を着るときの、帯締めを咥えて姿見を肩越しに見る視線の強さや、帰宅した時の高揚したようなイラついたような複雑な変化は、絶妙。
帰るなり廊下がベタベタすると言って拭き掃除させるのも、タキの視線から逃れるため。
帯を解く衣擦れの音も艶めかしく響きました。

ご主人・平井雅樹役を演じた片岡孝太郎さんもとてもよくて、さすがに台詞も表情も安定していて、かの時代らしい画になりました。
原作にあった時子が浮気をする原因ともいえる、男性的魅力が欠如した部分が描かれていませんでした。
時子が再婚であることも描かれませんでしたが、そこ大事だと思うんですけどねぇ

板倉正治役が吉岡秀隆さんというのはいかがなものでしょう。
始終いつもの困った顔のままで、一目惚れするような健康的な青年ではなかったですね。
好感度の高い俳優さんで、私も純クン時代から好きな俳優さんですが、この役は違うかな?
その他の配役はどれも適役。貞子さんも睦子さんも小中先生も。

原作では、タキが手紙を書けと提案し板倉が訪ねて来て出征前に逢瀬があったと自伝に書いてあったのに、なぜ遺品の中から未開封の手紙が出てきたのかが問題となっています。
せめてもの贖いがそこに記されているのに、
映画の自伝にはただ「板倉さんは来なかった」、奥さまは待ち続けたと書いているんですね。
来たと書いてあると、それこそ映画『つぐない』になってしまうからなのでしょうか。

『東京家族』は未見ですが、今作は小津作品へのオマージュが表されています。
玄関から続く廊下を映したり、手前の部屋からのローアングルで座卓の傍らに胡坐をかいたご主人の画、台詞を喋る俳優さんを正面から捉える画など。
小津アングル発見は、見ていて楽しかったです。
板倉に会いに行こうとする時子をタキが止める場面のみカメラが移動してタキを追います。
山場となる場面で、揺らぎを表現されたようです。
この時の時子が怒気を孕んで身を翻し部屋へ戻るのはよかった。

実のところ、若い監督による新鮮で斬新な演出で見たかったんですけど。
独鈷柄の帯が逆さに締められていたのをタキが気付いた下りは、タキ目線で長めに演出されていましたが、これはタキの予感が当たってしまって事件の始まりを告げる場面として充分に衝撃的でした。
気持ちが通じるや、玄関で見送る時に後ろ手にした指を絡ませ甘く声をかける変化もまた。
しかし、タキに「長く生き過ぎた」と泣かせたり、健史が恭一の車椅子を押しながら涙するとか、お定まりで演出過剰である印象です。
山田洋次作品らしいといえばそうなのでしょう。
恭一が、戦争に翻弄されたひとびとへの哀悼の気持ちを話す場面で映画は締めくくられます。
愛情に包まれた生活から一転、戦争孤児となった恭一にも計り知れない苦労があったのでしょう。
戦時下を生きたひとと、伝え聞いただけの世代との、意識の落差を描くことこそ監督の本意だったのかもしれません。


フィリップ・シーモア=ホフマンの訃報を聴いて、追悼として『ハンガーゲーム2』を見ようかと思ったんですが、上映終了。
『3』を含めた未公開作を待つことにします。

前日の夕方には霙交じりの雨も降って、終日厳しく冷え込みました。
下弦の月も凍りそう。


映画
by august22moon | 2014-02-06 00:30 | 映画 | Comments(0)