桜色の雑記帳

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ピーター・ランデズマン監督作 『パークランド ケネディ暗殺、真実の四日間』wowow放映

黒バックに半旗になった星条旗だけのアメリカ版ポスターはこの作品に一貫する哀悼が表されています。
右の日本版は、ドキュメンタリー調で撮られた今作の緊迫感が表されています。
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矛盾と不可思議だらけのこの事件から50年目の昨年公開された今作。
究明がテーマではない点に興味があり是非見たかった作品です。
地元公開がなかったので、全仏オープン決勝バブリン対ジョコ戦の第1セットも棒に振って鑑賞。

支持率の低い地でのオープンカーパレード、順路変更、背後にビルが建ちカーブで速度が落ちる場所と、充分すぎる警備でも不安な場所で起こってしまった歴史的悲劇。
全編ドキュメンタリー調の撮り方が緊迫感を呼びました。
長くジャーナリストであった監督の鋭く客観的な視点で、事件に関わってしまった人々を映し出しています。

一目見たいと、誰もが浮かれていたその日。
パークランド病院の看護師たちも少しそわそわしてる。
研修医以外は会議中(TVのない部屋)。オンコールからまだ寝ぼけ眼のレンジデント役にザック・エフロン。
そこへ飛び込んでくる国家の一大事。
シニアをと怯む研修医にベテラン看護師長が「直ぐ来ます。でも今はあなたしかいません」「急患は大統領ですよ」と小声で叱咤する。
銃創による重篤患者、それも要人。しかもそれはケネディ。
騒然とし殺気立つ処置室で、狼狽えまいと努める看護師長役マーシャ・ゲイ・ハーデンがうまいですこと。
ジャッキーがトランクの上に飛び散ったのを拾って握りしめたままだった夫の一部を渡された時の憐みと驚愕の表情が秀逸。
手の施しようも無く、しかし死亡宣告ができず心臓マッサージを繰り返す研修医。

ワシントンでの司法解剖は『JFK』でも詳細な場面がありましたが、この処置場面は珍しいのでは。
コルセットを着けていたとか、下着はそのままでと研修医が指示したとか。
特に処置に失敗もなかったような演出でした。
看護師長がロッカーに持っていた十字架はそのままアーリントンへ行ったのだろうか。

オズワルドが運び込まれた時、看護師長が「ここでは受け入れられない。外傷2号へ」とストレッチャーを移動させたのは、ケネディーと同じ処置室になることを避けたかったからでしょうか。

シークレットサービスたちの白いシャツにもケネディの血が染められている。
車がER入口に到着して夫人の膝からストレッチャーに乗せたのは救急医ではなく彼ら。
警備をするでもない保安官たちの好奇の目に「よりによってこんな町で」と吐き捨てる。
空港にも警備らしき姿はない。
とにかくワシントンへと急ぎ、しかし棺を貨物室に置くわけにいかないと座席を取り払い、狭い入口の壁をのこぎりで切り、エアフォースワンに搭乗させる。
もうなにも出来ることはなく立ち竦む。
ひん死の治療の最中に持病の飲み薬を渡すことぐらいしかできなかった主治医も、もはや棺に付いた汚れを拭いてあげることしかできない。
初めて大統領を守れなかった彼ら。せめて尊厳だけは守ろうとする姿に打たれました。

興味深かったのは、あまり掘り下げられなかったザプルーダー氏とオズワルドの兄の事件の日から四日間も追っているところです。
現場を撮影してしまったことで、彼がどれほど運命も生活も変えられてしまったかが描かれました。
FBIが訪れて現像を迫る。しかし現像できるところがなかなか見つからない。
ようやく現像した映像は直接的には見せず、ザプルーダー氏のメガネに反射してかすかに見せているだけ。
事件の瞬間も彼の表情だけを追って、実際の映像は直接流さない。
これは現在私たちが見るあのコマが飛んだ不自然な繋がりの映像ではないものが存在していることも臭わせます。
彼にはFBIが付っきりなんですが、よくぞテープを強制的に押収しなかったなと。
ライフ誌が一番信頼できるからと直接会うんですが、その瞬間は使わないでくれと懇願する。
そんな間にもドアの隙間からCBSですニューズウィークですと交渉メモが投げ込まれる。
決定的瞬間が偶然記録されたからといって、世界中に流布するのが報道の使命なのか。
ここでも尊厳だけは守るべきだという主張がありました。

もうひとり一生を狂わされたのはリー・ハーベイ・オズワルドの兄ロバート。
パレードに浮かれ気味の職場にあってもひとり真面目に仕事に取り組んでいる実直な人柄。
突然、(不可解な速さで)弟の名が上がり、ただただ戸惑い茫然としてしまう。
とにかく家へ帰ると虚ろな姿の横に映るタイムカードのラックに、きっと毎日決まった時間に真面目に出社していたであろうことを窺わせました。

革命家と称し危険な言動のあった弟の、曖昧な態度に激高はするけれどそれすら空しく堪える。
リー・ハーベイに、やってないとも罠に嵌められたとも言わせていませんでした。
肉親にすら謎のままとした演出でした。

兄はどうしたらいいと保安官に尋ねて「名を変え土地を変える」と言われて愕然とする。
この兄役の抑えた無表情に近い演技も痛切。
盛大な国葬と対照的に侘しい荒野のような地を行く車列。
どの教会からも葬儀を断られ、シークレットサービス(演じるのが『24』でシークレットサービス・アーロン役を演じたグレン・モーシャワー!)が手配してくれた神父に埋葬の儀式をしてもらう。
(警官だけでなくシークレットサービスまでも付き添っていたとは)
我々は棺を運べないといわれ、遠巻きに立つカメラマンにおずおずと近づいて「棺を降ろすのを手伝ってくれないか」と頼まなければならない哀れ。
一目でこの兄もまた被害者なのだとわかるようすが、冷たい報道の視線すら動かします。
一人で土を掛けるのを見かねた作業員の男たちも手伝う。
他の映画同様、ソ連から連れて来た妻と幼子はそのようすしか写しませんが、この兄の姿を追ったのも珍しい。
名前も変えずダラスで今も御存命と最後に紹介されます。
その後、陰謀説が出てオズワルドへの容疑は薄れたとはいえ、その苦悩たるや想像を絶するものであったはず。
夕暮れが迫る中を漂うように歩いていくロバートの背に、それを感じさせました。

明確に提示せず、あくまで推理ものではない姿勢を貫いているのはフィルムだけではなく、「ジャック・ルビー」も見せない、クロンカイト氏の有名な死亡を伝える瞬間のニュース映像も出さず声だけ。
予告編には一瞬映る教科書ビルも、ディーリープラザの全体像も出さない。
象徴とされる場面はあえて排除していました。
当事者からの証言として得られたであろう事実しか出さない演出でした。
オズワルドは逮捕後の面会場面だけで他はジャック・ルビーに撃たれる瞬間のニュース映像だけ。
当日のようすはまったくなし。

事件に関わったひとびとの苦悩の感情を描くことでひとひとりの命が奪われることの大きさを表した作品でした。
そこにプロデューサーとして名を連ねたトム・ハンクスらしさも感じました。

エンドロールに流れるあのトランペットと打楽器だけの曲は葬送曲のよう。
確か『ダラスの熱い日』でも流れていたような。


映画
by august22moon | 2015-06-10 00:06 | 映画 | Comments(0)

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