桜色の雑記帳

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村上龍著 『オールド・テロリスト』 文藝春秋刊

オールド・テロリスト

村上 龍 / 文藝春秋



「ムラカミリュウの新作は老人がテロを起こす話」と、話し声が聞こえてきたのは、新幹線車内で放火し焼身自殺を図ったのが71歳の老人だと報道された頃。
あまりのタイミングに慌てて検索したらまだ連載中と古い記事を見てしまい、先日になって既に発売されていると知り漸く読み始め、遅読の私にしては珍しく一気に3日で読了しました。
それほどに夢中にさせるストーリーで、面白く読みました。
例によって、テロによる金融経済への影響が書かれることで、現実味を添えています。

『希望の国のエクソダス』のセキグチが50代になって登場。
週刊誌は廃刊となり職を失ったことから立ち直れず、妻子にも見放され、そのショックから安定剤を常用してなんとか生き延びている状態。
しかもビビッて醜態を晒し続けて、呆れるほど情けない中年男。
地位も名誉ももちろん資金も潤沢にあり、戦争を経験しているので肝も座っている老人たちと比べても、実に頼りなげ。
唯一、新宿の映画館のテロ現場から逃げる時の、毒ガスを浴びたかもしれない場合の対処が適切で、これが契機となって、俄然立ち向かうか!?と思わせるのですが、
今度はこの時の凄惨な現場が目に焼き付いてさらなるPTSDを発症していまうという・・・。
確かに正常な人間なら正視に堪えないものを目撃してしまったら、恐怖が拭えないのは当たり前ですが。
犯人たちから指名されているんだからしっかりしてよ、です。
ほとんどの村上作品では、凄惨で残酷な場面にも立ち向かう逞しい主人公が多い中、セキグチ弱すぎです。
だから躊躇がもどかしく感じてしまいました。
ミツイシが現れた時のビビりかたも酷過ぎです。
だから、経験値に勝り人心掌握にも長けた年代の人たちに、若干の慰めと共感を引き出されてしまう。それで、利用されているのに。
最終的に記事を書くことで、ジャーナリストとして復活し、自我を取り戻せたのかしら。

マツノという若い男性が出てきますが、他の社員は自分の記事作成に集中してPCだけ見ている社内で、唯一事件に興味を示し協力してくれる。
コミュニケーション能力のある若者として描かれています。
しかし、2度までも無差別殺人の瞬間を目撃したショックから立ち直れず、離れてしまうのは当然で、まだ若さゆえということで理解できました。
この若者の言動が妙に現実的で、親近感のあるキャラクターでした。
刈払機で自殺しようとするのを大声で止めず、「それやっちゃダメだろ」と撮影を続けながら呟くところなんかね。
元気になって戻ってこないかなーと再登場を願ってしまいました。

カツラギも若者ですが、こちらは村上作品独特の非現実的な女性。
セキグチの一人称で書かれているので、恐怖で混乱している間は隣りにいるカツラギのことが見えず、どんな反応か分からないのは仕方ないのですが、自分の知人が関わっていることの複雑な心情や過敏な神経はどう反応してたのかな。
シアトルで颯爽と生きているセキグチの元妻にしても、段々と冷静さを取り戻してセキグチやマツノを支えるほどにまで恢復したカツラギにしても、強靭な精神力を持った女性として描かれています。

ドイツの88ミリ対戦車砲を3台も非合法に持ち込めたとは聊か荒唐無稽ですが、戦後混乱期という逢魔が時の恐ろしさが想像できました。
いくら米海兵隊特殊部隊が最新兵器を持っていて、狙撃能力も雲泥の差としても、武器・弾薬も大量にあるならもう少し交戦する準備はなされなかったのか。
しかも強面で主人公を散々緊張させたカリヤは、気付いたらドローンからの銃撃で頭飛ばされてるし。
防空壕内殲滅と同じにあっと言う間に油を撒かれて。
アメリカ相手じゃ仕方ないか。『半島を出よ』の青・少年グループが交戦した相手は北朝鮮軍でしたしね。
浜岡原発もとりあえずの脅しということなのだろうけれど。

「ありとあらゆるものが、幸福よりも重要かもしれない」。
死ぬ覚悟はできているとか、「アメーバ状組織」のテロ集団とか、黒い情熱の薄気味悪さが、残りました。


本・読書
by august22moon | 2015-09-02 22:41 | 読書 | Comments(0)

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