出会った本、映画の感想。日々のこと。

by august22

アトム・エゴヤン監督作 『デビルズ・ノット』 wowow放映

d0109373_154193.jpgいつものことながら、地元上映が僅か10日間で、見逃した作品です。
93年に実際に起きた男児3人の猟奇的殺害事件「ウエスト・メンフィス3」を映画化した14年公開作。
容疑者となった3人の若者のうち2人は無罪を主張しますが、2人とも第一級殺人罪で、死刑と終身刑。
知的障害のある残る1人は明らかに誘導による自白を有力とされ、第二級殺人罪で有罪。
wikiによると2011年に司法取引に応じて10年の執行猶予付きで仮釈放となっています。
再審請求がされていないようで、そうゆう条件付きだったんでしょうね。
劇中にも、司法取引に応じれば「懲役20年でも10年で出られる、10年経っても君はまだ26歳だ」なんて弁護士と容疑者との会話がありました。

この事件をベースに、冤罪を生んだ背景としてアメリカ南部地方の気質にも触れています。
車にステッカーを貼るほどに生活に信仰が密着した町。異教徒を排斥せよと呼びかけるバプテスト教会。保守的で異端文化に過敏に反応する人々・・・。

無残な遺体や写真は出ますが、犯人に出会うところも殺害場面の描写もなし。
刑事によって濁った水の底から引き揚げられた映像がショッキング。
(小川と言われていますが流れはなく赤土に澱んで池か沼のよう)
自転車を引いて立ち入り禁止の柵から森の中へ進み入る3人の男の子の後姿。
慎重に水管橋を渡る姿は、引きのカメラで、まるで誰かの視線のようです。
彼らは何かに導かれるように森の奥へとゆっくり進んで行きます。まったく楽しそうに見えない。
悲劇の始まりは静かに穏やかに映されています。

被害者のひとりスティーヴィの母親パムが、息子が残した提出するはずだった宿題を持って採点してもらいに小学校へ行くと、クラスメートたちが黙って次々と立ち上がりパムを静かに抱きしめる場面は胸を突かれました。
8歳の子供たちが精一杯表した哀悼。
誰を信じていいのか分からないその街で、ここには純粋な真実の涙がありました。
パムの息子スティーヴィくんがまた可愛くて。なおのこと悲愴。

パムを演じるリース・ウィザースプーンは、長閑な南部の町に暮らす普通の母親という少しふっくらした容貌(妊娠中だったのかな?)。
救いを宗教に求めるも癒されず途方に暮れる。徐々に裁判に不信感を持ち始めるも、どうしたらいいのか悩み立ち竦む表情が真実味をもたせていました。
眠れない夜の窓の外に、自転車を引いて帰って来た息子の幻を見るなんて、胸が詰まる。

地元住民の、若者3人に対する偏見と日頃の疑念が決定打となり逮捕されるんですが、物的証拠もみつからないまま、被害者の親友で現場から逃げて来たという少年が現れる。
それも結局は、警察に操られた母親がらみの偽証だったことが最後に明かされますが、当時は幼いからとの理由で裏付けも取られず出廷もせず、有力証言とされる。
今作での2人は頑強に否認する様子もなく、怒り苦悩する姿も描かれず、その辺りはグレーに表現しているのかと思われるほど。特に主犯とされたダミアンは、既に全てを諦めている感じです。

コリン・ファース演じるロン・ラックスはこの事件を怪しく感じて、自ら協力を申し出るという民間調査会社の調査員。
初動捜査の遅れ、物証の無さ、刑事の勝手な推測、面談記録の短さ、重要参考人となるであろう‘血まみれの男’の捜査の杜撰さを取材調査して、公選弁護人に提出していく。
当時この事件のドキュメンタリー映画『パラダイスロスト』が撮影されていて、そのクルーから被害者少年クリスの継父から貰ったナイフに血痕があったことを聞きつけます。
この血痕について公判で追求されることになるんですが、継父の証言は二転三転。
検察側証人は信憑性に欠ける証言ばかりと、有罪の証拠には弱いものばかりであるにもかかわらず、完全な出来レースとなっている裁判に弁護側は手も足も出ない。
捜査資料は555件なのにナンバリングが「666」になってるなど、子供じみた悪意が行われている。
不良っぽく見えて被害者と面識があったというだけで、お悔みにまで来た善意の青年にも嫌疑がかけられる。
冤罪の典型ともいうべき事件を暴く作品なんですが、最後に示された告発がちょっと驚き。
パムの息子が大事にしていたナイフを夫が隠し持っていたのが事件の真相をさらに混沌とさせるのですが、それにとどまらず後年DNA鑑定によって少年が縛られていた靴紐に絡んでいた体毛が、パムの夫のDNAと一致したと結ばれています。
(このDNAサンプルを入手したのも調査員ロン・ラックス氏だとか)
警察発表のあった事実とはいえ、最後に新事実突き付けられて衝撃のエンディング。

アメリカ英語と無精ひげで演じたコリン・ファース。
調査協力しか出来ない立場なんですが、彼の佇まいはまるでエリート弁護士。
決してアウトローな探偵ではない。広義には探偵だけど捜査官みたいな。
事務所もビルの一室ではなく一軒家風な広さ。
(別れた妻が留守電に「家にも電話した」と言ってるから自宅兼事務所ではない)
助手も2人は居るようで、複数の案件を抱える身。実績のあるベテランであることが表されています。
経験の豊かさによる洞察力や調査力は明らかに若い公選弁護人たちを凌ぐので、彼らすらリードしてしまうんですね。

真犯人を見つけなければまた別の三家族が泣くことになると、正義を具現して力強い。
慈しみを持った眼差しで、確固たる信念を持ってこの悲劇の深淵を見つめようとする姿勢が、今作に於ける主張となっていました。


映画
by august22moon | 2015-11-19 22:31 | 映画 | Comments(0)