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by august22

リチャード・カーティス監督作 『アバウト タイム~愛おしい時間について~』 wowow放映

d0109373_23193333.jpg『ノッティングヒルの恋人』『ブリジット・ジョーンズ』の脚本家の兼監督、14年日本公開作。
このポスター、最初は結婚式場の広告と見間違えてしまいました。
(その映画館は上映前にも結婚式場のCMが流れて、ロビーにはポスターも貼られているので)
スチールそのまま使うほど、ナイスショット。

レイチェル・マクアダムスとビル・ナイ以外は知らない俳優さんばかり。
主演のテイムを演じるドーナル・グリーソンはいかにも気は優しいけれど情けない系の男子って顔立ちですが、表情がとてもよかった。
下宿先である父の旧友の脚本家が、ティムが訪ねて来たタイミングが悪いと不機嫌なうえに部屋で大声をあげたのを壁越しに「うっわ~」と驚く横顔がいい。
冒頭のティム一家のコーンウォールの自然を活かした日常描写が素敵で見始めたのですが、このグリーソンのたったひとつの演技でそのまま作品に引き込まれました。
女性相手だと要領が悪くて失言もあるけれど基本的に好青年なので、映画全編に漂うのは穏やかな空気。

一族の長男だけに備わったタイムトラベル能力が齎すファンタジーですが、決してありきたりなファンタジーに留まらず、人生の意味を知らしめる上質なお伽噺でした。
タイムトラベルすることによる弊害や特性については、突っ込みどころもあるわけですが、主題はそこではないと構わなくなるのは、偏に終盤の普遍的な親子問題と人生観の表し方。

その能力を決してお金儲けや権力奪取に利用してはいけないとの教えを忠実に守って、それなら恋人を作ることに駆使するというのが若者らしい。
年越しパーティーで、好きな女の子へのアプローチに失敗したのをやり直すんですが、ついでに今度はテーブルを倒さないよう気をつけたりするのがこの青年の人柄を表していました。
夏休みに遊びに来た女の子に対しての失敗もタイムトラベルでやり直して、逆転できるかと思いきや、それでもやっぱりフラれるに至って、やっぱり運命は変えられないのかもと学んでいくあたりは微笑ましい。

登場人物も皆、いいひとばかり。
ティムの妹が不思議ちゃんで、ラベンダー色や紫が好きでいつもその色の服。車もラベンダー色。
後半トラブルも起こすんですが、決してトラブルメイカーにはさせてないのがいい。
一家恒例の屋外映画上映会(イーストウッドの用心棒シリーズ!)に突然雨が降ってきて皆が一斉に傘を差しても彼女だけは濡れるのを楽しんだりしてる。
お兄ちゃん大好きっ子で、ティムがロンドンで弁護士の仕事を得て引っ越すので不機嫌になるなんて可愛い。ボンネットに捕まって車の発進を遮ったり、おとうさんと一緒に手を振って見送るかと思いきや中指立てちゃったり。
だからといってお兄ちゃんの恋人に嫉妬するなんてことはなく、走ってきて飛びついてハグするという歓待ぶりが可愛い。
d0109373_23265879.jpg結婚式では花びらのようなドレスにバッシュというのがこの娘らしい。
メアリーにしても、自分なりのこだわりや主義主張をちゃんと持った女性である証拠に、白ではない深紅のウエディングドレスっていうのが素敵。

ティムの母親も気難しそうでいて、毅然と家族を支えているタイプ。
メアリーが訪ねて来た日、濃いベージュのニットアンサンブルを着ていて、ディナーの時にはそれにパールのネックレスをして改まった装いに仕上げているのが素敵。
ティムの家には叔父さんが同居しているんですが、毎日スーツ姿なのも、ファッションの拘りというより、居候であることの遠慮と配慮を込めているかのよう。
性格も穏やかで、一家恒例の浜辺のピクニック場面では、椅子ごと後に倒れちゃって笑いを誘ったり、ティムとメアリーの結婚をジョークまじりに祝福したり、結婚式では突然の暴風雨の中をパーティー会場前で傘もささずに笑顔で参列者を手招きしてたり。
セリフは少ないのですが、ワトソン的な存在で、この作品の温度を一定にさせていました。

突然の暴風雨で結婚式場からパーティー会場までみんなきゃーきゃー騒いで走って行く場面も楽しい。中にはドレスや髪が台無しでむくれるひともいるけど、スコットランド特有の気候を楽しんじゃってるとこがいい。
一緒に暮らすようになった頃、地下鉄通路で分かれるところだけでふたりの日々を切り取ったり、BGMだけで日常や出来事を映す場面が、PVみたいに楽しい。

仕事仲間ジェイも、愛すべき人物。
2年も勤務しているのにボスに名前を憶えて貰えなていないほどまだ半人前。気のいい男で、メアリーとシェイクスピア作品観劇に行くつもりが土曜は一日中寝てたいと断られ(でもシェイクスピアだから寝られるよと返すのが傑作)「週末の夜に暇な奴」ってことで呼び出されて、終演後もひとりまだ感激に浸ってて拍手してるって、いいひとなの~

メアリーという女の子に出会って人生を謳歌し始めた矢先に、下宿先の脚本家や妹を助けるためにタイムトラベルしたせいで、自分の運命も変わってしまう。
そのせいで、いろいろ駆使しなくてはならなくなってしまうのが、タイムトラベルの厳しさ。
とりあえずメアリーが現れそうな場所で何日も待ち伏せして、出会いから始めなくちゃならない(やれやれ)。

父親が病気で余命幾ばくもないと分かって、もっと父親との時間を増やそうとタイムトラベルを繰り返す。
なんでもない一日を繰り返してみると、その時は気付かなかったものがよく見えるようになると薦められてやってみるんですが、この場面がとてもいい。
朝いつも立ち寄る店の店員さんの心の籠った接客、地下鉄で隣りに座ったひとのイヤホンから漏れる音楽が結構いい曲だったり、ミーティングで窮地の仲間を機転を利かせて助けたり、裁判所内の豪奢な内装に気付いたりする(あたふたとだけれど)。
なんでもない日を大切に過ごすという、分かっていても出来ないことが出来るようになる。

「自分は未来から来ていると思うようにする」
あの日あの時こうしていれば今が変わったかもしれないと誰もが持っている後悔を、少しでも回避できるかもしれない。
「なんでもない日々」にこそ在る幸福を噛みしめて過ごすんですが、最後に、幼稚園へ送った娘が何度も何度も入口から出てきては手を振るのを繰り返すのが、二度と来ない瞬間をひとはみな目に焼き付けて生きていくんだって表して、なんともじんわり心温まるのでありました。

ティムの結婚式で父親が、巧く言えなかったからとタイムトラベルして言い直した祝辞で、一拍置いてまで強調したmarry someone・・・kind。
「優しい人」は、平凡だけどなによりも重要でどれほど大きな意味を持つものなのだということを、改めて痛感するのでありました。
今を大切に生きるなんて、使い古された言葉を別のアプローチで新鮮に届けることに成功した作品でした。


映画
by august22moon | 2015-11-28 00:04 | 映画 | Comments(0)