石井裕也監督作 『ぼくたちの家族』 wowow放映

d0109373_1232265.jpg原作の書名は、発売当初『砂上のファンファーレ』だったそうで、そのほうが物語の本質を突いていると思いました。

決してこの家族が全て乗り越え病気も全快したというハッピーエンドなお話しではなく、絶望の中からこの家族が団結して進んで行く覚悟が出来ましたというお話しなのだから、諦めず闘っていれば奇跡も引き寄せられるかもしれないよと差し出すのは良いと思います。それがエンタメにしか出来ないこと。
しかし、長男が友人の世話でよりお給料のいい外資系に転職が決まりそうとか、治療方法があるかもしれないと言う医者が同じくらいの年齢の息子がいて親身になりタクシー代まで心配するというのは余計で、そこは要らなかったと思います。これは‘ほのぼの’映画ではないのだから、長男の決意の固さも医師の良心も、そこまでしなくても伝わったのに。
長男の会社の先輩が外回りしたことにしておくと気を遣ってくれるという「いい話」を既に盛り込み済みなんだから。
そこに甘さが生まれて、この好転の勢いじゃ嫁の実家が金銭援助するとか言い出すのじゃないかと想像するバイアスなワタクシメが居りました。

登場人物それぞれの個性の描き方はとても良かったです。
演じる役者さんも巧かった。
個人事業者で頼れそうなおとなに映るのに、脆さを露呈させる父親。
ひきこもりであった過去を持っていて、妻にも弟にも頭が上がらない長男。
バイトはしているようだけれどまだ親のすねをかじっていて、飄々と生きている次男。
なんとか家を支えようとする母親。(しかしなぜ働かない?)
それは見る側それぞれが自分の家族を顧みる切っ掛けとなり得る、どこにもある、どの家族にもある問題。
長男の妻が自分のことを名前で「深雪は~」と言うところは、なんの苦労もなく育ってきた女性と見えますが、この妻の冷淡な態度は、家を守りたいという彼女なりの考えによるもので、そこは若菜家の母と同じなのではないかと思えるし、若さゆえに嫁ぎ先の金銭問題まで抱えきれなかったのかもしれません。

母親の病状は、冒頭から少しずつ壊れていくのがやり過ぎることなく徐々に確実に進行させました。
日常のちょっとした物忘れ。長時間ぼーっとしてしまう無気力感。息子の名前がすぐ出て来なくなる。妙な高揚感。家族でも見過ごしてしまいそうな変化の末に、お嫁さんの家族との宴席でひとりごとやお嫁さんの名前を間違える・・・。原田美枝子さんの巧さでリアルに受け止められました。

長男の「元・ひきこもり」という設定は、問題を全て自分の罪のように受け止めて、俯いて黙っている姿に現れていました。
家族に対する後ろめたさが、この青年を感情を剥きだすことも顔をあげて真っ直ぐ視線を向けることも出来なくさせているようです。現在はきちんと社会人としては生きていて、会社内では先輩からも信頼されているし結婚もして独立している。
いったい彼が逃避したかったものは何だったのか、その辺りは不明のままでした。
変ろうする人間を描く手段だったのかな

そんな兄を見て来た次男坊の描き方もとてもよくて、長男と対比したら気楽に生きているようで、常に軽い調子でいるのも、押し潰されそうな兄と父を、彼なりのやりかたで支えている。
再検査をしてくれる病院を探し始めたある朝、怠惰なようすでジーンズを履きながら何気に目にしたTVの占い「いて座のラッキーカラー黄色。ラッキーナンバー8」を、実は気にして黄色い服を着て病院を訪れている場面は、彼の苦しみや弱さが判りました。これに関する演技もないとこがまたいい。

『キツツキと雨』で、新人監督クンが目覚めて靴下を取る時、脳裏に「黒はやめとけ」と声が聞こえるっていうのも面白い演出でしたが。
私も毎朝そうゆうのあるんで。

ここで治療の道があることを診断する医師役として鶴見辰吾さんが出ているんですが、これが流石の巧さ。
信じられない思いで受ける池松壮亮さんの芝居も絶品。
「若菜クン、ここで何件目?」
「10件目です」
「そんなに回れないでしょー?」
「すみません、嘘つきました。6件目です」
溌剌と自信に満ちて患者やその家族と向き合うことの真の意味を知る医師と、池松くん独特の訥々とした話し方との会話も素晴らしい。
10件目だなんて嘘を言っちゃうところもこの次男坊らしい。嬉しくなっちゃったのね。
ほっとさせる場面です。
で、そこでようやくポケットからクシャクシャになった受付番号の紙を取り出して見るんですよね。「88番」。
不思議なことってあるものだと茫然としてるのもいい。
で、紹介された女医さんが予想に反してクールだというのもいいと思いました。板谷由夏さんハンサムウーマンな女医役お似合い。(映画『大奥』での大岡忠相役ってのも妙に似合ってた)
でも腕時計はアレでいいのかな?仕事中はもうちょっとゴツイのしてそう

以前にもちらっとこの作品を見たんですが、それが池松くんが病院を出てタクシーに乗ろうとしてちょっとたじろいでそのタクシー見てる場面。なぜなのかやっと判りました。
そのタクシーも黄色だったからなんですね。なるほどなるほど。
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手術が成功したのを聞いた次男が、緊張の糸が切れて子供のように泣きだす場面は、こちらの感情も揺さぶられます。
この時の妻夫木さんと長塚さんが涙を堪えようと、顔を背けるタイミングと速度が同じ。
これ、演出ではなく、池松くんの芝居を受けてのおふたりのアドリブ的反応なんじゃないかと思いました。
画面構成上のバランスはよくないんです。そこを崩しても、いかにその役柄を生きているかを大事にしたのではないかと。
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演出だったらスミマセンですけど。
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母の手術も一旦は成功して、ちょっとはにかんだように口の端に笑みを浮かべる長男の顔のアップで終わるのは、この先からがこの青年の試練なのだと示していました。
明日崩れるかもしれない脆い場所に立ち、自らファンファーレを鳴らしている。
そんな笑みでした。



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by august22moon | 2016-03-05 00:02 | 映画 | Comments(0)


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