出会った本、映画の感想。日々のこと。

by august22

アダム・マッケイ監督作 『マネー・ショート 華麗なる大逆転』

d0109373_1481744.jpg映画館へ行く途中から雨が土砂降りになって、スカートぐっしょり。ハンカチを敷いて座ったけれど、シートは湿気っぽくなってしまいました。


第88回アカデミー賞作品賞候補作品。
今時「華麗なる~」なんて珍しいですが、このサブタイトルは本編からまったくズレていました。タイトルまでいじったのは金融経済に疎い観客を誘い込むためか、原作者とブラッド・ピット繋がりで思いついたのか。
予告編もまるで『オーシャンズ』みたいに高揚感や爽快感を煽りますが、終盤に向けてつのるのはむしろ恐怖感。惹句のアウトローも違う。アウトサイダーのままでいいのに。

重苦しくて考えさせられる展開と結末でした。
助演賞ノミネートのマイケル役クリスチャン・ベールは安定の巧さ。
子供時代がひとつのしかし痛切なエピソードで表されます。試合中に「もう帰る」が涙を誘います。「先生、ナイスプレーを褒めてたぞ」と支える両親に、どれほどの辛苦があったろうかと想像させます。
神経科医にもなってハンデは乗り越えているように見えても、今もその影を残している人物であるところが感じられました。
自室で荒れて大声出して奥さんから心配されて、極力平静を装って「大丈夫だよ」と応えるのも、ずっとこうしてきたんだろうなと思わせました。
大きな賭けに出て、崩壊の時を待ち続ける、その焦燥。

比べて、ブラッド・ピットがねぇ・・・。こうゆうのを浮いてるっていうんでしょうか。
この人物自体はたいへんユニークな偏屈ぶりで、電話番号は複数持って相手によって使い分け、自家菜園はオーガニックに拘り、駅の雑踏では防塵マスク姿。握手の後も手を気にしたりと極端に神経質。
若い投資家ふたりが最終的に儲けを手にしてはしゃぐのを、多くの人たちが職も家も失うんだ踊ってんじゃない!と一括するセリフ自体は響いてきました。プロデューサーでもあるからか随分と美味しい役どころ。

ドイツ銀行のジャレッドから知らされたマーク(スティーブ・カレル)らヘッジファンドチームも、
いち早く危機を察知し、逆手にとって「ビッグショート」に成功したトレーダーのマイケルも、「華麗なる大逆転」なんて気分は皆無で沈鬱な面持ち。読みが当たったと喜ぶ者はいません。
マイケルがゴールドマンサックスのマグカップを貰って帰るというのが巧い演出。まるで遺品のよう。ほくそ笑む社員を振り返えるその顔はどこか悲しげ。
マークも今後の世界経済を憂いて、売りの決断にさえ躊躇する。生き残ることは加害者側に回ることなのではないかと。救えなかった自殺した兄の姿も過ったんだろうと思わせます。

結末まで非常にテンポよく時にコミカルに進んでいきます。気づけば130分あっという間。
専門用語飛び交う、素人には意味不明な世界で観客を置いてきぼりにしないような工夫がなされています。
・・・が、途中で席を立ってしまったカップルいました。
「第4の壁の破壊」を使って「判り易いようにマーゴット・ロビーに説明していただきましょ~」とか「ほんとは英語喋れるし、数学世界大会では1位じゃなく2位。」とやったり。
有名(らしい)シェフにシチューに例えていかに誤魔化されてきたかを説明するのも、セレーナ・ゴメスに経済全体に波及していくようすをカジノゲームを例に説明するのも、判り易い。
面白く応用して、若者ふたりがサブプライムローンの弱点に気付く場面も「本当はここで知ったんじゃないんだけどね」って演出上盛ってるんだとわざわざ表して。自由すぎですー。さすがコメディ出身監督。

マークたちが最も危険視したフロリダを調査し始めて問題点が次々と明示されていくところはサスペンス風に盛り上がる場面です。
売家と空家だらけで「まるでチェルノブイリ」のような新興住宅地。請求書類に「sorry」と書き置きして夜逃げし荒れ放題の空家。僅かに住んでいるひとも返済の目途がたっていない。
キャバレーのダンサーのおねーさんなんて5軒も家買っちゃって、転売も借り換えも出来ないと説明しても聞き入れない。犬の名前で借りたなんて・・・。甘い話しに乗ってローン組んでしまう恐ろしさ。
・・・しかも公正であるべき格付会社までもがいいかげんだったとは。

全編ノリのいいロックで盛り上がりますが、特にデフォルトの多いフロリダでアジア系トレーダーと食事しながら「合成債権」のカラクリと無謀な取引を知らされる場面にはなんと、日本食レストランnobuのBGMとして徳永英明さんの「最後の言い訳」が流れました。
♪ 一番大事なものが一番遠くへいくよ の部分が、会話と会話の間に聞こえます。
これ、音楽担当者はもちろん判っているのでしょう(エンドクレジットは見逃しました)が、麻生さんの切ない別れの歌詞が警句となってピッタリ。これ分かるのは日本人だけというね、勿体ない。
スクリーン上に歌詞を出すのは厄介らしいので仕方ありません。
格言が出てきますが、マーク・トウェインの他に、村上春樹氏の「1Q84」から「誰もが心の中で世界の終わりが来るのを待っている」が出て来ました。

この作品で、リーマンショックの顛末は少し理解できました。
売り?買いじゃないの?レベルな金融経済に全く無知な私には、証券化とかCDSとか「?」マークしか出てきません。
初めてこの金融商品が提案された時の、あまりにも簡単に嬉々として飛び付くさまは唖然です。アイデアとしては画期的だったんでしょうね。
最後に再びこの危機は起こると警鐘が示され、暗澹たる思いで終わらせました。

マーク・トウェイン曰く「知らないことが問題なのではない。知っていると思い込むことが問題なのだ」。
これは普遍的。



映画
by august22moon | 2016-03-12 23:00 | 映画 | Comments(0)