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by august22

トッド・ヘインズ監督作 『キャロル』

d0109373_23204871.jpgこちらもクリスマス前後のお話しですが、アットホームな心温まるクリスマス風景はありません。
ツリーを買う場面は子供もいるし楽しげなんですが、キャロルが仄暗い居間のカーペットに座ってプレゼントを包装する場面もどこか寂しげ。
ラジオから流れる新年を祝う音楽からも部屋の外の喧騒からも遠く離れて、ふたりのいる空間だけに真実の時間が流れているよう。
パトリシア・ハイスミスが別名義で出版したほどに当時としてはスキャンダラスな内容とされた作品は、出会ってしまった者同士の続いても別れても辛く苦しい関係は、普遍的なテーマともいえます。

50年代の時代を表した映像が、哀しいふたりを余計に悲しげに映しました。
監督のトッド・ヘインズ、『エデンより彼方に』でも、50年代というまだ人種差別が強かった時代に、黒人の庭師と普通に接しているだけで異端視されてしまった女性を描いたもの。
世間では禁断と犯罪者のように後ろ指さされるという点では共通していますね。

この時代のファッションも素敵。
ウエストを絞ったツイードのスーツ。ハイヒールの緊張した脚元。肩にかけたカーディガン。
おとなの華やかさを表すくすんだ朱色。しっとりと濃い深紅。パールのネックレス。コンパクトなハンドバッグ。ウエーブした髪。女性がもっとも女性らしい時代です。

落ち着いた色合いの服に赤で華やかさを演出するキャロルに対して、バイトしながらで決して裕福ではないテレーズは地味目な色合いが多いので、旅行で着るために大事そうに鞄に入れた赤いセーターが印象的に映ります。テレーズが窓の外の景色を見ながらりんごを齧るのは、隠喩ではなく直喩。
そしてテレーズが赤を着た時、キャロルはブルーグレーのアンサンブルニットを着ていて、赤が被らない。
当時独特のブラウンなのかグレーなのか混ぜ合わせてくすんだ虚ろな色は、いろんなものを背負いすぎた重苦しい惑いのようです。

ケイト・ブランシェットがいつも以上に、硬質な美しさ全開で圧倒されます。
クリスマスショッピングで混雑するデパートで、一瞬で目を惹く美しさと気品。
全ての光りをそこに集めてしまう。
さらりと振り向いて「帽子似合ってる」とジェスチャーするかっこよさたるや!

ルーニー・マーラがまさに天使。まさに「天から落ちて来たひと」。無垢で純真。こちらもキャロルならずとも魅了されるであろう可愛らしさ。素の彼女も控えめな感じですから似合ってる役柄。
食事中に、キャロルの問いに答えるのに口元をちょっと指先で抑えて急いで呑み込むとこなんてかわいい。
離婚調停中で苦悩のただ中にあるキャロルと違って、テレーズは写真家を夢見ている未来ある若者。恋人との関係に悩んでいるのもなぜなのか自分の中で整理しきれていない。
物静かで感情をあまり表に出さないタイプの女性が、心ときめかせ静かに歩を進めていくようすが表現されて見事。
ふたりはそれぞれに言葉少な。心の揺れ動きも決心も言葉にしない。
ただ表情と仕草だけで相手への気持ちを表現させているところが絶品。

テレーズの恋人役が、『クーパー家の晩餐会』のジョー役のジェイク・レイシーなんですね。帽子被ってるし目つきも全然違うんで分からなかったー
キャロルの夫役のカイル・チャンドラーも、顔立ちがいいひとっぽいので、テレーズとの関係も壊して娘すらも奪うことになるんですが、夫としたら妻を取り戻したいと必死なわけですよね。一番苦しんでいるひとなのかもしれない。

それにしてもキャロル。行動が早い。躊躇してない。ことテレーズに関して一直線。
別れも、苦しみながらも一旦は決断するわけですから。強いんだ。
テレーズも控えめで自分を主張することはないけれど、写真家という夢を密かに持っている。
子供の頃から、お人形さんより電車遊びが好きだったほど、部屋に閉じこもっているオンナノコではないんですね。
出勤時の従業員入り口でサンタ帽を配られるのをみんなすぐ被って、社員食堂でまでもみんな被っているのに、上司に注意されるまで被らない。お祭り騒ぎの高揚感がないだけで反抗的な態度ではない。そこに彼女の性格が出ています。
キャロルの去り際の「似合ってるわよ」も、ほんとは気乗りしないのに無理に被らされてるんでしょ?って内心見透かしてる表情がいいです。
気付かれちゃったら一気に気持ちが近づいちゃうわよね。

ラストは、『卒業』を思い起こさせると思ったら、監督は主演ふたりにその話もしたとか。
バスに乗って、さあ問題はその後なわけで。そこからまだ長い人生が続く。そのバスは何処へ行くのか。
もっと連想するなら、『小さな恋のメロディ』。子供たちのお話しだけど、子供たちだけにさらに絶望的で残酷なエンディング。終焉に向かってトロッコは進んでいって終わり。
テレーズに気付いて、ゆっくりと笑顔に変わった時、その笑顔は喜びのようでいて無防備ではない。顔の角度を変えてまっすぐテレーズを見ていない。そのまま視線を戻すのは簡単じゃないか、そのほうがいいとね、過ったんですが。
オープニングのスタッフキャストロールの文字は水色で、エンドロールがピンク色なのは暗示的なのかな。
それならふたりはふたりだけの真実を貫いて、バスに乗ったのかな



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by august22moon | 2016-04-23 23:00 | 映画 | Comments(0)