出会った本、映画の感想。日々のこと。

by august22

スティーブン・ナイト監督作『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』wowow放映

d0109373_1320327.jpg15年日本公開作品。
主人公のアイヴァン・ロックが車内で電話をするだけのワンシチュエーションムービー。
大変面白かったです。

もちろん『チャイルド44』とは発音も『マッドマックス』とは声質も変えて地声に戻して、建設会社で責任ある立場と平穏な家庭生活を過ごしていた平凡な男を演じています。
なにかの決断を迫られてぎりぎりまで悩んでいたうえでの行動であることだけが示されて、徐々に状況や根底にある父親との軋轢も判明していきます。
見るひとによって、まったく感想も解釈も変ってくるストーリーでしょうね。

妻に、孤独な女で同情しただけで、酔ったあげくの一晩の過ちで愛情は無いと言いつつ、でも認知して責任はとるつもりでいると打ち明ける。
しかもそれは浮気相手の出産に立ち会うために病院へ向っている車内から電話されてるって、妻にとってまさに「強盗に入られて家をメチャクチャにされた気分」。

浮気相手であるベッサンという女性との関係性を表す会話が非常に面白かったです。
早産の不安から「窓が開いてて寒いのー」「誰も来てくれないのー」「また窓が開いて寒いー」なんてことまで電話してくるので、それでなくてもいっぱいいっぱいなアイヴァンを精神的に追い詰める、であろうと想像させますが、アイヴァンは疲労感を覚えながらも冷静さを保とうとしている。
自分しか話しをする相手がいないことを知っているから慰めたり力づけたりはしているけれど、「愛している」とは最後まで言わない。
「憎むほど君を知らない」。
これが出産することを選択した相手へ、お互いの覚悟を確かめる言葉。

後部座席の亡き父の幻影に向けて、恨みつらみを吐露する。
どうやらこの男は自分を捨て家庭を崩壊させた父親を恨んでいて、同じ男にはならないの一念で生きてきたようなんですが、今や同じ道を歩みかけている。
だからこそ、せめて新しい生命に対して責任を取るしか、それを回避する方法はないと考えたんでしょうか。

明日の「ヨーロッパ最大の」大仕事すら頼りないけれど彼しかいないからと部下に電話で指揮。
判明した施工ミスを補うべく作業員を呼びに走らせる。怒れる上司からはクビを宣告される。
200台のトラックを現場へ通すための「封鎖じゃない。交通整理」の警察への依頼確認。
(通ってない!ので)レストランで食事中の役所担当者への再申請。
持って来てしまった書類を読み上げながら指示するので、事故を起こさないかとヒヤヒヤ。
書類から目を挙げて、テールランプが霞んで見えるショットにもヒヤヒヤ。
でもこの作品は、なんとかこの状況下で乗り切ろうとする主人公の行く先を突然の交通事故で遮断することも、通話相手を映すこともせず、車を一旦降りて一息つかせることも、もちろんUターンもさせず、ただひたすら病院へ向かわせる。
それが「世界一行きたくない場所」なのに。

難産の末に生まれた子の泣き声に、ほっとして微笑むけれど、家族のことを思えば安心している場合じゃないのに。
息子の言葉や、仕事の実績やミスの対応を考えれば、全て失ったようでいて、もしかしたらチャンスは残されているかもしれないと思わせました。


【備忘録的追記】
「W座」の再放送で『チャイルド44』の字幕版が見られました。
ロシア語が解るわけではありませんが、ロシア語訛にしているのは判りました。

孤児院の場面。姉妹がトランクを提げて廊下の先に現れて、レオとライーサに伴われて階段を降りていくラストまでにレオの表情は少し横顔がシルエット気味に映るだけでしたね。
トランクを持ってあげてゆっくり3人の後ろをついて階段を降りて行くまでのレオの姿が、胸に迫ります。
君たちの両親を返すことはできない。申し訳ないと思ってる。涙ながらに謝罪するこの男の姿は優しさというよりも弱さであるように見えます。
よく泣くのよね、レオ。
どれだけのものを与えてもこの姉妹に真の幸福は与えてあげられないのだと、自身が孤児であるレオには分かっているんですよね。
最初は安堵感と見えた横顔も、ゆっくりとした動作で姉妹を気遣った姿は全身から涙を流しているようでした。

妻ライーサに言われた、保安省だから拒絶できなかったの言葉を忘れていないんでしょうね。
だから、「まだモンスターに見えるか」って尋ねたんでしょうね。


放映後のトークで長友氏、ロシア人は名前が覚え難くくてと、ストーリーについて言及せぬまま。
薫堂氏も、納得せざるをえない気遣いで応えるだけ。
文学ならともかく、俳優の顔で判別できるのに(笑)




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by august22moon | 2016-08-02 23:00 | 映画 | Comments(0)