人気ブログランキング | 話題のタグを見る
NEW POST

天童荒太著 『悼む人』 文芸春秋社

悼む人

天童 荒太 / 文藝春秋


《あらすじ》
週刊誌記者・蒔野が北海道で出会った坂築静人は、新聞の死亡記事を見て亡くなった人を亡くなった場所で「悼む」ために、全国を放浪している男だった。
やがて静人は、夫殺しの罪を償い出所したばかりの奈義倖世と出会い、2人は行動を共にする。その頃、静人の母・巡子は末期癌を患い、静人の妹・美汐は別れた恋人の子供を身籠っていた――。
静人を中心に、善と悪、愛と憎しみ、生と死が渦巻く人間たちのドラマが繰り広げられる。


memento mori
直木賞受賞作品を受賞後すぐに読むのは久し振りです。
大阪へ観劇遠征の際に新幹線の中で、なんでこの本持ってきちゃったかなと後悔したほど、重く辛い小説でした。読者が自身の死生観を考えずにはいられない。否、考えさせるための小説です。
静人は報道で情報を得て、現場まで所持金を節約するために基本的には徒歩で野宿しながら赴き、故人の存在を胸に刻むという‘儀式’をし続けます。その旅は関東に留まらず北海道にまで及びます。
しかもその場の儀式だけでなく、故人を胸に刻むと言う。ノートに記録し記憶しておくと。
一体、日に何人の人間が亡くなるのか。一人の人間が生涯を賭したとしてもやり通すことなど不可能な数。考えただけで気が遠くなります。
静人は命に軽いも重いも無い。たとえ、その末路を当然のことと同情もされず偲ばれることもない人間でも、必ず愛し愛されたことがあるはずと説きます。
聖人のように。
「亡くなった子供の名前より、犯人の名前のほうが先に頭に浮かぶ」
「怒りや苛立ちが心を占めて、どんな人が亡くなったのかか残らなくなる恐れ」
故人を悼み心に刻むことの大切さを説いたこの言葉は印象的です。

読んでいて重苦しいのは静人の旅だけではなく、末期がんに冒された静人の母についての部分。
病の進行が延々綴られます。
幻覚を見るようになり、遂には意識が遠のく最後の場面は、どこか崇高で幻想的です。
あれは幻覚だったのか、静人だったのか。
最後にようやく小説として距離を置いて読める部分がありました。

by august22moon | 2009-03-14 01:15 | 読書 | Comments(0)

出会った本、映画の感想。日々のこと。


by august22
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31