2009年 04月 10日
中野京子著 『怖い絵』 朝日出版社
『物語は無言で進行している。』
一昨年、発売になってだいぶ話題になりましたね。
私はドガが好きなのですが、第1章としてドガの代表作『エトワール、または舞台の踊り子』が取り上げられているので、なんで!?と疑問になり読んでみました。
アブサントを前に空ろな顔の女を描いた『カフェにて』あたりなら、なにか曰く所以が在りそうですが・・・。
古くはボッティチェリ『ナスタジオ・デリ・オネスティの物語』からベーコンの『ベラスケス〈教皇インノケンティウス十世像〉による習作』まで20作の絵画が広い視野で分析されています。
文脈というか語調が松岡和子さん(翻訳家・演劇評論家)に似ている気がしました。
現代にも共通する人間の業や矛盾や欺瞞を、名画の中に読み取るのに映画の引用が目立ちました。
「怖い」というのは劇的に恐怖心を煽る絵ばかりではなく、一見しただけでは分からないメタファーを探っていくことで「怖さ」を知らしめるので、ドガも紹介されているのですね。
他の画家が描いた同じテーマの作品との比較もされています。
ゴヤの『我が子を喰らうサトゥルヌス』は言われなくても怖いよーな絵ですが、ルーベンスのサトゥルヌス画と比較。
ジェンティレスキの『ホロフェルネスの首を斬るユーディト』はカラヴァッジョの作品と比較。
画風の違いだけでなく、人格や生活背景によるそこに込められたメッセージの違いが分かりました。
それにしてもフランシス・ベーコンのベラスケス作品を引用した「教皇」の絵は怖すぎ。
ホラーですわ。
ダブリン生まれのこの画家を知らなかったのですが、「知は力なり」のフランシス・ベーコンの末裔なんですね。
絵が2ページに渡って掲載されているので‘のど’部分で見えない箇所のある絵画もあり、改めて画集で確認したくなりました。