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レニー・エイブラハムソン監督作 『ルーム』

d0109373_196552.jpgカナダの制作会社の作品だったんですね。
ようやくの地元公開で場内盛況。予想以上に心に残る作品でした。
「The Room」ではなく四角で囲って記号のようにしたのが、この部屋の持つ意味を表しているようです。

被害者にとって、犯人が逮捕されて終わりなのではなく、それから更に長く辛い再生のための生活が始まるのだという観点で作られた作品です。
監禁生活と救出されてからの生活の、描き方のバランスがとてもよかった。

それにしてもあまりにあっさりと、犯人がジャックの死を受け入れたのは意外でした。よかったけど。
利発な子とはいえ、動かないでいられるか、HELPと書いたメモを通りかかった人に渡せるか。緊迫の場面。
初めて見る広く大きい空を愕然と見上げるショットは、ほんとうに印象的です。
トラックの荷台からのジャック目線のカメラワークがよかった。
動体視力が未発達だから走り去る風景も人も捉えられない。
(そんなに荷台から乗り出したらミラーに映っちゃうって!)
母親と犯人以外の人間と接触したことのないジャックが思うように動けないのがもどかしいのですが、この場面は手持ちカメラなのか、ジャックや通行人の目線で撮られ、緊迫感がありました。
せっかく荷台から降りられて通行人に助けを求めたくても、初めて見る他人に近づけない。
(ヘルプが言えない!)
しかしこの通行人の機転が救い。ただ事ではないと察して声をかける勇気のある人だった。しかもジャックが差し出したメモにも気付いた。「その紙はなんだ!?」
(よくメモを差し出せた!えらいぞジャック!)
警察が来るまで、かけてくれたコートの下で縮こまっているジャック。
初めての雨に濡れながら、目の前にはママが教えてくれた「木から落ちた葉っぱ」。あの天窓に貼りついていたのとは形の違う「落ち葉」。それが初めて触れる「ほんものの世界」。

救いとなる人が多く登場するのもこの作品の特徴。そこがとてもいいと思いました。
世界は広くて恐いこともあるし悪いおとなもいるけれど、それ以上に世界は美しく喜びに満ちて、温かく優しい人も多いんだよと、この子供に示しているようでした。

ひとまず署へと言う相棒を制して、子供から少しずつ情報を導き出して、(しかもジャックの記憶力が正確!)監禁場所の地域を特定し直ちに急行させた女性警官。(お手柄!昇進間違いない!)
どれくらい経った頃か、普段通りに声をかけてくれる隣人。
その息子なのか、遊んであげるように言われてなのか、アラン君も遊びに誘ってくれて。
(ボール蹴ったらシューズが飛んでっちゃうのも可愛い)
退院してきた母親に抱きつくその後ろで、ボール持って小首傾げて見ているアラン君をピントぼかしてフレーム内に入れてる演出も細かい。
母親の再婚相手のレオ(トム・マッカムス)も素晴らしい。レオ、いいひとで良かった。
子供の扱いにも慣れている。ジョイと母親の諍いにも口は出さない。
多分、犬が切っ掛けで誘拐されたジョイのために他所へ預けたであろう愛犬も、興味がありそうと知るやこうゆう犬を飼っていると先に情報を与えておいて、頃合いを見計らって連れてきて、「飼ってくれる?」。
なんていいひとなのー

子供は吸収が早く柔軟だと言った医師の言葉どおり、見る側も驚くほどの変化と成長。
階段もスムースに降りられず、狭い空間やクローゼットの中に居たがり、他人とコミュニケーションがとれなかった子が、表情もすっかり明るくなって走り回り、お隣りさんに「ばぁばとパンケーキ作るのー」と大声で言えるようになる。ここはちょっとびっくり。
遂には、おばあちゃんに感謝を込めて「アイラブユー」と言えるまでになったのにはさらにびっくり。
この言葉の、なんと大きいことか。心打たれる感動。
カメラも廊下からの引きで撮って、扉のわくが額縁のよう。名場面でした。

ジョイの自室の壁に、若き日のディカプリオのポスターが貼ってあるんですね。レオのファンだったからジャックと名付けたのかな?

ジョイを演じるブリー・ラーソンも、絶望と子供の成長による安らぎの間で揺れ動く心情が見える、オスカー納得の見事な演技。
父親である犯人に子供の誕生日は教えない。ケーキに気付いて後日買って来たプレゼントに苦々しい思いを隠せない。「犯人は父親ではない。私だけの子供」と母やインタビュアーに答える。子供に罪は無いと心に刻みつけるまでの長く遥かな時間をいかに苦しんだか。
この最も難しい部分を、ラーソンは全身に沁み込ませて表現して説得力をもたせていたと思います。

ジョイは「部屋」の中で、子供が心身ともに健全に暮らせるように細心の注意を払い続けるんですが、それは彼女にとって外の世界をさらに遠いものにしている。きっと何度も脱出を試みたであろう天窓を、呪わしく見上げる疲れ切った表情が巧い。
洗脳もされなければストックホルム症候群にも侵されなかった。恐怖と屈辱の日々の中で必死に自我を支えて闘い抜いた。それなのに、心無い言葉に傷つけられ、子供とは逆に、奪われた日々を取り戻すどころか、あの「部屋」に囚われ、追われ続ける。
そんな母親に向けてジャックは、念が籠っているからと切らせなかった髪を切って、お守りがわりにと贈る。
早く帰ってきてと駄々をこねていた子が、母をその苦しみから救おうとする。
帰りたがっていたあの「部屋」へ、行こうと望む。
彼にとっては生まれ育った場所。習慣だった部屋中のものへの朝の挨拶を、別れの挨拶に変えてなぞっていき、母親にバイバイしてと促す。
(卵の殻は破壊しないと外の世界へは出られない。『デミアン』のように)
ちゃんと男の子に育ってる。
きっとこの先、父親のことを考える日が来ても、彼なら乗り越えていけるだろうと思わせました。

ラストシーンで、この納屋を後にする母子の上に雪が降ってくるんですが、予算不足で人工雪を使えず諦めていたところ、本当に雪が降って来たのだとか。
「誰かが開けてくれるのをドアの前で待つ」ことをせず、自らドアを開け、取り戻すために闘うすべてのひとびとへ、贈られているようでした。


映画
by august22moon | 2016-05-27 23:00 | 映画 | Comments(0)

ガス・ヴァン・サント監督作 『追憶の森』

d0109373_12222593.jpgカンヌでの低評価やアメリカでの公開未定という情報から、いったいどうゆうところが問題なんだろうかと、先に感想を読みました。しかしこれがまた様々で、余計にどんな作品なのか予想がつかないまま見ました。

冒頭から、M・マコノフィーの虚ろな表情がアップにされますが、作品中、どアップが非常に多い。シルエット気味になってもどアップ。
バニシングポイントを見つめる遠い目で、虚ろに透き通った男の佇まいが抜群に巧くて惹き込まれました。
空港を東京の喧騒を茫然と歩く姿勢、向い席の乗客にもただならぬようすが分かる、ぬけがらの姿。
場所を決めて森の木々を見渡して、満足気に小さく頷く。
このマコノフィーの演技を見ているだけで満足できる作品でした。

新幹線の車窓から見える富士山が、ぼんやりとそこに在るのかも判然とさせないのは良かったと思いました。

渡辺謙さんの役どころについては、徐々に判明していく形なんですが、マコノフィー演じるアーサーは最後まで気付かない。
外国人同士という距離がそれを気付き難くしているんですね。
妻の名前が「キイロ」なんて言われても、そんな名前なんてキラキラネームでも存在しな・・・するか?
(だからオムレツ選んだの?)
タクミの発言はそれ以外にも悉く正体を示す伏線となっているのに、霊魂や煉獄を説いても「私は科学者だ」と一蹴するし、妻と子供の名前を教える時の表情は完全に意図を持っているんですがアーサー見てないし。
時には「ヘンデルとグレーテル」のヘンデルをハンサムと発音ミスのほうに気を取られさせている。
妻がタクミの姿を借りてアーサーに接しているのに、妻とはかけ離れた風貌の男にして、正体をぼやかしているんですね。
謙さん、日本人としては体格いいほうだし。華奢な男とか女性にしないんですね。ガス・ヴァン・サントだから?

アーサーは既に薬も飲んでいるのに、他者に邪魔されるのを避けて移動しないどころが声をかける。
ついさっき通って来た道が閉ざされていて愕然とする。望んでいたことなのに。
森から出ようとする過程で、寒さを避けるため他の自殺者の服を脱がせたり焚き火をする。
夜の寒さ。洞窟に流される。崖からの落下。チャンスはいくらでもあったのに。とりあえずこの男を脱出させようとではなく、もう生きることしか考えてない。
亡き妻が彼を、生へと導いて救っていたということなんですね。あなたは病室のベッドで死なないでとは言ったけど、ここじゃないし今じゃないし!とね。
また、彼の中にも生への未練がまだ残っていたのかもしれない。
その変化が自然に受け止められて、そこはマコノフィーの巧さなんでしょうね。矛盾には映らない。
テントに映るタクミのシルエットを、一瞬妻に見えてもいいのではと思ったんですが、ずっとタクミでしたよね?

日本人として見ると、様々「日本じゃない」感が必ず出てリズムを狂わせられるのですが。
ハイキングの服装でもない男が樹海の入り口らしき、鳥居のある駐車場前でタクシーを降りた時点で、運転手さんが通報しないのかな?バスは使えなかったか
遠景はロケされたようですが、タクシーの後部ドアが自動開閉でないので、もう日本じゃないと気付いちゃう。
ケン・ワタナベの助言も振り切ったのか、レンジャーの監視塔?に風鈴なんて下げてたのも見落としませんよぉ日本人はぁ

自殺に相応しい場所としてネット検索してすぐに青木ヶ原の樹海が出る。
日本人には名所として刷り込まれていますが、日本との関わりもないアメリカ人が、なぜそこに惹かれ選んだのか。そこがいまひとつ説明不足。その海原のような原生林の画像に惹きつけられたところは、その演技の巧さで理解できました。
でもそれだけでは、ずいぶんと短絡的決断に映ってしまいます。
肝心の切っ掛けをもう少し描いてもよかったのではないでしょうか。

樹海の中は携帯の電波もけっこう届くそうですし、コンパスも使えるそうです。
深部に入ると、昼なお暗い原生林というのがよく知られています。溶岩の上の森なので木の根が盛り上がっているし、倒木や折れ枝が多く、そこに苔がいたるところに生えている。
広大な森ですから、国道沿いや自然歩道周辺のように明るい場所もありますが、霊魂の漂う怪しさが削がれてしまったことは事実です。
しかし、誠実な演技がそれらを越えている部分は、確かにありました。

成仏するとそこに花が咲くって、漱石の「夢十夜」のようで、その表現は美しさが在りました。
可愛らしい蘭のような花も、安堵の頬笑みをもって迎えられそうではあります。



映画
by august22moon | 2016-05-20 23:51 | 映画 | Comments(0)

佐藤信介監督作 『アイ アム ア ヒーロー』

d0109373_2259020.jpg97年位から『どうでしょう』を見ている、多少「藩士」な私には、おーいずみさんが主役を演じるだけでまだまだ感慨深いものがありますわ。

漫画雑誌編集者役で高橋洋さん登場。ふたりの洋さんついに共演です。
ブログで高橋洋さんがこの共演について言及されていますが、おーいずみさんのことを、「いつも自然体」で、「役と自分」の「境目のようなものがなさすぎて感心してしまった」と。
ほんと、どんな役でも後部座席で愚痴ってた頃のままなのだー。

原作は未読ですが、顔立ちを似せるために眉毛太く書いてるのね。
夢の実現のために何も出来ずにくすぶっていて甲斐性もない。彼女に「それは夢じゃなくて妄想」と罵倒されて返す言葉もない。図星だから。
「世界がひっくり返っても」ふがいないままの男が、どう立ち上がりどう闘うかというお話し。
最後の陸上部員は3発だっけ?とすると地下通路に来たゾンビは93人?弾が足りてよかったよかった。
なぜこの男が散弾銃所持するほどクレー射撃が趣味となったのか、どれくらいの使用歴があるのかの説明があったほうが良かったんじゃないでしょうかね。銃の扱いに慣れていることがご都合主義的にならないように。・・・原作にはあるのかな?
今だ射撃場で1発も撃ったことないのか、クレーの最中だけが強い男でいられ腕前はいいのか。
それになぜ職場に戻ったのかも、説明が欲しい。警戒はしてるけど。

奇態描写や黒い血の色を見て、何かに似てるなぁどこかで見たなぁと思いながら見ていました。
エンドロールで監督の名前を見て(忘れてた)、ああ、『GANTZ』か!と気付きました次第です。
あの星人たちの描写と似てますね。ラスボス的不死身の陸上部員なんて特に。
アップになるゾンビの造形がそれぞれ違って、瞳だけでなく、皮膚までも凝ってますこと。ウイルス感染だからなの?従来のゾンビのようにシンプルメイクじゃない。撃たれた時の頭部の破壊されかたも細かい。これはマニア受けするでしょうね。

気弱な部分を残して「どいて下さい!」「どいてー!」はよかったな。命令口調にならないところが。
叫ばず、小田の持つトランシーバーから声が聴こえるのもよかった。
終わってみるとバンデミックホラーばかり記憶に残るんですが、そんな中でも笑わせどころがあるのは珍しいですね。
ゾンビ目の前にして、「ひろみちゃん、出番」と小声で起こすのと、ロレックスは笑えたー
高橋洋さんがおべっかで売れっ子作家のロレックスを褒めたのを憶えてたわけだね。それが命を救ったのだけれども、取りすぎよー

守ると立ち上がった瞬間はふたりにとってのヒーローとなったけれど、殺し終わってみればそれは雄姿ではなく、カタルシスもない。ラストマン・スタンディングはただ殺人者の姿。
だから後部座席であの表情。

半覚醒のレプリカントみたいな制服姿の女子高生が森の中で座ってるという画はシュールだけど、生々しくないこの女優さんがやると可愛らしい風景。
アイドル女優の枠に入るひとですが、よくいえば安定感があると言うか、わるくいえば初々しさがないと言うか危うい魅力がないというか。毎朝のように見ていたせいで見慣れてしまったってことかしら。
長澤まさみさんは、闇を抱えている雰囲気が巧く出ていて、大人のかっこいい女風。
複雑な過去を持っていそうな看護師さんて、それだけでドラマ性があります。
喫煙場面があるのは珍しいですが、一段落してほっとしたところを表すには最適の小道具。臆せず使っていいのでは?

・・・とりあえず弾丸の補充しないと、だね。


予告編で、なんか尻尾がやたら長い『シン・ゴジラ』。
悔しさ押し殺しているかのような横顔の、高橋一生さんがちらっと見えました


映画
by august22moon | 2016-05-19 23:00 | 映画 | Comments(0)

ウェス・ボール監督作 『メイズランナー』 wowow放映

最近はテニスのグランドスラムのみならずATP全ツアー中継を欠かさず見ています。妹が特に錦織ファンだからなんですが、私もフェデラーやバブの試合は見たいからなんですけどね。
週末には準々決勝以上の試合があるので、リアルタイムや当日再放送で見たい妹は週末に呑みに行けなくなってしまいました。
わたくしとしましては、その間のドラマも放映映画もツアーの合間にちゃちゃっと見てしまわないといけません。試合によっては決勝の2日後に次の大会が始まることもあるのでタイヘンです。

d0109373_15261139.jpgさて。映画館で予告編を見た時は面白そうだと思っていながらの未見作品。
もっと迷路を駆け抜ける場面があるのかと思ったのですが、巨大迷路が主たるテーマではないのですね。
迷路というのは国策の比喩なの?
こうゆうSF設定はたいていツッコミどころ満載で、今作もご多分に漏れず、なんですが。
ともかくニュート役のトーマス君があのアニメキャラのような可愛さを失うことなく成長していて、一安心。
大概の外国人子役くんは、大人になるにつれ顔つきが逞しく変ってしまうので。よかったよかった
『レヴェナント』にも出演していましたが、『ナルニア』のユースチフ役ウィル・ポールター君も、彼もそのまま変らず成長した感じ。

ざっと感想を書いておいて、あとでじっくり書くことが多いんですが

特にこれ以上はございませんね

by august22moon | 2016-05-16 23:00 | 映画 | Comments(0)

瀬々敬久監督作 『64 (ロクヨン) 前編』

d0109373_18485979.jpg映像化となると、どこかしら設定を変更されてしまうことがありますが、前後編と上映時間を取れるのなら、ほぼカットされることはないだろうし、映像で行間を表す事もなされるのではと期待していました。
ところが、原作で印象に残った部分がカットされてました。ちょっと残念。
蔵前が調べた、被害者・銘川が馴染みにしてい居酒屋主人の留守電の証言が無かったー!
糟糠の妻との思い出だけが泣かせ何処ろになってた。
そこ、秋川に響くかなぁ。両親に思い馳せでもしたのかな・・・
あれが銘川の侘しすぎる日々を表現して、記者クラブの面々の心も動かしたんだと思うんですよね。
普段口数の少ない蔵前が「本人にとっては重要なこと」と引く姿勢を見せなかったのも、三上が蔵前に「記者たちに取材の秘訣を教えてやれ」と褒めたのも、当夜のようすまで余すことなく調べたからじゃないのかなぁ

先に三上が、無言電話が娘からだと信じる妻・美那子に、松岡参事官宅・村串宅・美雲宅にも無言電話があったらしいから、よくある悪戯電話なのだと早くも説得していたけれど。
銘川宅の留守電の話題まで入れては、管内に無言電話が多すぎって懸念があって、どこにでもあることと片付けられる程度の数に収めておきたかったのかなぁ

蔵前役は金井勇太さん。いつもは怪しげな役柄が多い方ですが、控えめでオロオロするところが巧かった。ミニコンサートの取材ってこの方が言うと、らしくなさが可笑しい。
美雲の、三上への不満を募らせる溜息が強調されていました。
演じるひとの健康的で翳のない特徴でもありますが、「女であることはやめられません」に始まる真情をぶつける一連のセリフは、もっと食い下がってぶつかっていってもいいのでは。
最近はその肢体を活かして男社会で闘う役が多いのに、どれも緊迫感を感じない。男性以上に闘志を持たなくてはならないはずなのに。明朗快活で気持ちがいいし、多少甘くてもそこがいい時もあるんですが・・・。若い女優さんはそんなものですかねぇ 
美雲の見せどころだったのになぁ

報告書を読み上げる佐藤浩市さんの芝居は、ただ涙しながら読み上げるというものでした。それもまた、刑事らしいのかもしれない。
報告書を読んで感じ入るところがあり、その死に涙するひとも遺骨の引き取り手もいない老人の、住まいや馴染みの居酒屋を訪ねてその孤独な姿を想像させたのは、ひとりひとりにそれぞれの人生があることの大きさを、もっと心に留めるべきだったと改めて痛感させた場面になっていました。
そしてそれが、雨宮の、幸田の、日吉の、それぞれの人生を想起させる伏線ともなっているようでした。
その涙を受けての、瑛太さんが堅い表情を崩さず薄っすらと涙ぐんでいる芝居は素晴らしかった。
センターに位置取って目を合わせない姿は1000UPくらいしてる手強そうな秋川でした。
この男の頑なさが解けていく後編が楽しみ。

雨宮家の仏壇前で三上が泣いてしまう場面ですが、ここまで感情を溢れさせるとは。
アドリブのようで手順があるように見えなかった。声にならず仏壇の方に向けて視線と手を向けるのはやりすぎに見えましたが、「止まってくれない」涙にうろたえているようすが表現されたとすれば、演じるひとの渾身が伝わって、見事だと思いました。
三上という男が背負っているものの重さを感じさせるには、これくらいは必要ということでしょうか。


キャスティングは総じて適役に見えました。
吉岡秀隆さんは、もう何を演じてもあの切なげな声と表情に引きつけられてしまう。香典袋の字にまで幸田の人柄が見える気がしちゃう。幸田の苦しみが尚一層際立つ気がします。
三上に会いに来たのはびっくりですが、覚悟を示した伏線ということですね。

永瀬正敏さんの雨宮が予想以上に素晴らしかった。
ドラマ版での段田さんが圧倒的で完成されていたので、もの足りなさを感じるかもと思ったのですが。
原作にあった「妻以外の全員を疑っていた」そのままに、電話を待っている時の怒りを湛えた闘う姿勢。きっと犯人を推定していたに違いない目の険しさ。
テレコの故障でうろたえ焦る背後の警察を一瞥すらせず、決然と受話器を取ったのには驚きました。
あれでは日吉は辛いなぁ。
窪田正孝さんも、全身から溢れるような緊張感。テレコを試動させる表情なんてこっちまで緊張。
しかし、辛そうに泣きますねぇ

この雨宮は、三上が仏壇の前で涙を流すのにも驚くことも、憐れみや同情を見せることもない。
「喫茶あおい」で、美那子を見ていることにしたんですね。美那子も軽く会釈しちゃってるように見えましたが、目を反らしたの?それ余計。捜査員が客として混じっていることを一瞬で見抜いたと考えると、この男の鋭さが感じられますけど。
老いてからも孤独な侘しさというよりも、憎悪が生きるよすがとなっている。
こうゆう雨宮も、後々面白いことになりそう。
伏線としての電話ボックスのショットももちろんありましたが、雨宮が電話帳(らしきものぐらいにしか見えないようにしている)をそっと棚の下へ避けるところも、何気ない仕草に留めたのは、スリリングな伏線。

綾野剛さんには珍しく抑えた演技が求められる広報官役ですが、上司三上と記者クラブとの間で波風を抑えようと、かなり必死に全身全霊で立ち向っています。この三上にはこれくらい激しく出ないと、という感じでバランスがよかった。
記者クラブが匿名報道と長官取材を了承した後の喜び方が傑作。バリエーション豊かですねぇ

64年当時は仄暗い映像で、当事者にとっての昏さが表されているよう。
昭和を送別する弔旗の並ぶ町の、なんと冥く冷たく寂しいこと。



映画
by august22moon | 2016-05-12 23:00 | 映画 | Comments(0)

コリン・ファース2作 wowow放映

 ウッディー・アレン監督作 『マジック・イン・ムーンライト』

d0109373_11582631.jpgエマ・ストーンを新ミューズで迎えたラブコメ。
20年代、花の咲き乱れる夏の南仏、有感マダムと紳士たち。
無邪気なラブコメに相応しい舞台を揃えた映像はとっとも楽しかったです。

















コリン・ファースが高慢で鼻もちならない一流マジシャンという設定。冒頭から文句炸裂。
で、そんな男が恋のマジックにかかってしまうわけですね。
ポケットに手を入れた立ち姿、軽く指に挟んだタバコ、帽子のつばをなでる仕草なんてね、おとなの余裕と品格が相変わらず素敵です。
ソフィを演じるエマ・ストーンが可愛くて美しくて笑顔も最強。一瞬で相手を魅了するちからがありました。
これが旬の女優ってことなのね。
お互い惹かれ始めて当初の企みも崩壊しちゃうんですが、騙されていたと気付いて、マジック使っていつのまにか椅子に座ってた!という場面は傑作。
騙して痛い目にあわせて反省させようって話は好きではないので、先に見破ってよかったよかった

しかし、高慢な男はプロポーズまであんなかね
d0109373_1416450.jpg






ローワン・ジョフィ監督作 『リピーテッド』 

d0109373_022364.jpg逃げるニコール・キッドマンが開けたクローゼットにアイロンが見えた時思わず言っちゃいましたよ、それは痛すぎるーそれで殴るのヤメテーと。

フーダニットのサスペンスですが、マーク・ストロングが怪しげな目つきで演じるものだからギリギリまでどう転ぶか分かりませんでした。
こちらもコリン・ファースには珍しい役柄ですが、それが功を奏しています。

子供を亡くした話しをする時の辛そうな表情とか、妻を背にして密かに涙を流す表情なんてね、さすがに巧い。
もうコリン・ファースが夫だっていうならそれでいいじゃないのーでしたわ。

私ったら、いつからニコール・キッドマンがこんなに魅力がないと思い始めたんだろう。
レッドカーペット以外見るべきものが無い。



映画
by august22moon | 2016-05-08 23:00 | 映画 | Comments(0)

アントワーン・フークワ監督作 『イコライザー』 wowow放映

d0109373_1182614.jpg 『トレーニングデイ』のフークワ監督作。
デンゼル・ワシントンの風貌が活かされた作品ですが、80年代後半に放映されていたTVシリーズだそうで。
精悍で鍛え抜かれたいかにもプロフェッショナルな姿に魅了されて終わりそうなところ、ラストには少々疑問。
あれだけ暴れて、ロシアンマフィアを一掃して、街に戻って悠然と暮らしていること自体不自然なのに、必殺仕事人か闇の処刑人、あ、調停人か、そこに行き着いてしまうとは。

眠れない夜にダイナーで読書して過ごしている時も、カトラリーを揃え直したりしているのは、軽い強迫性観念症なのかしら
こと仕事に於いては、1ミリも狂いを許さない几帳面さが必要とされるでしょうし、1分1秒が大切なお仕事でもあるでしょうから、昔からの癖が抜けないってことかもね。

職場のホームセンターの従業員を人質にとって誘き出されても徒手空拳で乗り込んで、売り場の商品を次々と利用しての殲滅場面はちょっと爽快。
ホームセンター、取扱注意の凶器満載ですからね。
頼りなげなラルフィーも、最後の最後で決めちゃうのねぇ。ラルフィーがんばった

殺し屋の狂気はリアルに描いていたのに
ロシアまで飛んで行くのはまあ譲りましょう。元・CIA仲間もいることだし。
しかし。窮状を訴え助けを求めるサイトで、お困りの方に「YES(力になれます)」だなんて。
最初にロシアンマフィアを一蹴したあとに、虚空に向けて謝ったのは、もうこの道には戻らないと決心していたからじゃないの?エクスターミネーションに目覚めてしまったのか。
ファンタジーにしちゃってよいものか。



映画
by august22moon | 2016-05-08 22:00 | 映画 | Comments(0)

ジョージ・ミラー監督作 『マッドマックス 怒りのデスロード』 wowow放映

d0109373_15111570.jpg 『マッドマックス』は全作ジョージ・ミラーだったと今作のヒットで改めて知りました。
彼の人生ほとんどマッドマックス。合間に『ハッピーフィート』(笑)
私の周囲でも話題でしたが、キャラクターがいちいちキモチワルくて見る気にならなくて。
4D版を見に行った同僚に、飲み物置いとけるの?誰目線で揺れるの?なんて尋ねる程度の興味しかなかったのです。

で、このたびようやく見たんですが。これはいかにもオトコノコがのめり込みそうな映画ですねぇ
リピーターも多かったのが頷けます。
荒野を疾走する改造車の面々がわけわかんない。1・2時代があどけなく感じる。この迫力はスクリーンで体験すべきでしたね。
アカデミー賞で、あんなに何度も「MADMAX FuryRoad!」って聞くことになるとは思わなかったのですが、他の映画賞でも美術デザイン部門で高評価だったのも納得できる、スターウォーズなみに凝ったキャラデザイン。そう、みんなまるで宇宙人

アクション場面で早回しが分かったりコマ送りのように見えたのはワザとなんでしょうか。TV画面で見るからかな?でもそれが不思議とこの激烈な世界の奇妙さにおいて効果的でスピード感を削がれることはありませんでした。
長い棒で飛び移るっていうのも映像的に面白い。走行中もゆや~んゆよ~んとしなっている。
で、よく見ると根元で支えてる役目のひとがいて、けっこうタイヘンなんじゃない。
大太鼓やギタリストの演奏もヘビメタのPVみたいで斬新だけど、士気を高めるための軍楽隊ってことですね。ギルゴア中佐の「ワルキューレの騎行」みたいですが、曲ほとんど聞こえませんでした。
知能程度をユーモラスに示していたり、詩的な表現があったりと、セリフにそれぞれの性格や背景が表されて、それがやたらと細かい。
支配者と兵士・奴隷という階級構造に宗教が介在して、そこに奥の深い世界が構築されているのもヒットの一因なんでしょうね。
満天の星空に通信衛星が流れる場面の会話なんて、荒廃した世のどこかに救いがあるのかと思わせます。
なにも無いより、残っていることがより寂寥感を起こします。

フュリオサ大隊長役のシャーリーズ・セロンが男前です。
パーフェクトなスタイルもあるけれど、動きがシャープでかっこいい。いかにもタンクローリー駆っていそう。
しかしトム・ハーディーが二代目マックスを演じることになるとは意外。
元・警官の正義感や家族を失っている悲壮感やどこか脆そうなところがメル・ギブソンの顔立ちに合っていて、壮絶な舞台設定とのギャップが魅力でもあったわけで。
イメージとしてサム・ワーシントンが新生マックスに合ってると思ったんですよね。ほぼオーストラリア人だし。
トム・ハーディーとなってだいぶ印象も変わりますね。甘さがないぶん、孤高の男らしさが増してる。
スプレンディドに呆れ気味にサムズアップだけ送るとかフュリオサにしかたなく銃を託す時の表情とか
トム・ハーディーの群れない感じそのままのマックス。
(でも、あれはなに?「かすったぞ!」はなに?囚われの身で。)
瀕死のフェリオサに初めて名を明かすのも抒情的になっていないというのもハードボイルドでいいですね。受けるS・セロンも意をくみ取ってるところがよかった。戦士だねぇ

これ、3部作なんですね。さらにパワーアップするんでしょうねぇ、恐ろしいー
『サンダードーム』でも、凄いことになっちゃったなぁと驚きましたが、撮影当時60代後半でこんな強烈な映画作るとは。確かに、50年くらい続いてるロックバンドのメンバーって風貌ですものね。



映画
by august22moon | 2016-05-07 23:00 | 映画 | Comments(0)

アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督作 『レヴェナント:蘇えりし者』

d0109373_1784782.jpgようやくオスカーを手にすることができたディカプリオ主演作。
周囲が騒ぐほど本人はオスカー無冠を意識していないのかもしれませんが、これでもかとハードな役にエスカレートしていってのこの役。

映像はとにかく凄くて強く印象に残りました。
日暮れや夜明け直後の仄暗い時間帯ばかりで、映像全体が黒々と暗く、色といえば雪の白と夕陽と炎の赤と夜明けの薄青い空と群青の夜空の青だけ。
カメラも低いアングルからが多く、黒く湿気った土に這いつくばり、高い木々を見上げる登場人物と同じ視点。

この昏い森の木々を見上げるショットが多いのですが、とても印象に残りました。残像となって現れたほど。
冒頭で、ディカプリオ演じるグラスたちが、川沿いの森で先住民のアリカラ族に襲われる場面。この時の映像の迫力が凄かった。
逃げ惑う人たちと同じ低い視線で走り抜け、そのまま馬で追うアリカラの戦士と並行して走る。怒りに満ちた顔のすぐ横にまでに近づく。そのカメラワークに息をのみました。
蛇行した川の対岸に立つアリカラ族一群の映像は、委ねようと変る心情を理解できるほど、息がとまるほどに荘重で神聖さがありました。途中で出会った廃墟の教会よりもさらに、夢のなかの絵のよう

瀕死の重傷から立ち上がり過酷な旅を乗り越えて復讐を遂げる男の実話と簡単に言ってしまえば、既視感の生まれてしまうストーリーを映像力で圧倒しました。

冴え冴えとした雪山の風景も、広大さというのではなく、人を寄せ付けない厳しさが感じられました。
坂本龍一氏の音楽も映像に沿うように、荘厳で重厚。なんとゆう孤独感。
重低音の弦楽器は、憎しみと哀しみの底に淀むような、微かな生の果てに流れているような音色でした。

ヒグマが人を襲う実際の事件に関するドキュメンタリーノベルはいくつか読みましたが、小熊の居た状況であのグリズリーは、急所である首の攻撃も中途半端で、まだ息もあるのを確かめておきながら、なぜ仕留めなかったのかな。原作で実際にそうだったということでしょうから言ってもせんないですね。

さて、肝心の主演氏の演技でありますが。ん~ どうなんでしょう
極限状況という負荷を堪えてやり切ったことで熱演と称えられ、受賞に値すると評価されるのは、聊か疑問です。それでは功労賞になってしまう。
息子を殺された男の悲しみと既に在る妻を失った悲しみ、復讐の一念、それを達成する間際に神に委ねるべきと悟る崇高さが、いかに観客の胸を打ったかにあるのでしょう。
まずディカプリオは見た目が若いので、あの年齢の子供の父親に相応しいように声を低くして威厳を表してしていますが、それでもまだ若い。ポスターぐらいの年の少年なら相応しいし、観客に訴えやすいのでは。
不自然とまではいいませんが、しっくりこないことが邪魔にはなりました。
正直なところ、彼の無念さに心を抉られ、寄り添うことはありませんでした。
グラスの中で消えずに燃え続ける怒りよりも、演者の役に対する執念ばかりが際立ってしまうのでありました。
寝床とした馬の抜け殻に、感謝と哀悼を込めてそっと触れる。その仕草は刺さりました。

最後にグラスがカメラを凝視して、オープニングと同じに、生の証である深い吐息が暗転後も続いて終わります。
明らかにカメラのその向こうを凝視しているんですね。
この演出は一連の臨場感あるカメラワークの答えとなって、彼と旅を共にしてきた者(観客)へ向けて彼が初めて投げかけ問いかける視線だと感じました。



映画
by august22moon | 2016-04-29 23:49 | 映画 | Comments(0)

ピーター・チェルソム監督作 『しあわせはどこにある』 wowow放映

d0109373_12443312.jpgテーマとしては食指の動くものではないのですが、『宇宙人ポール』で脚本家独特の役を俯瞰視しているようなやりすぎない演技が好ましい印象だったサイモン・ペグが主演なので見てみました。
『ミッションインポッシブル』は見てないんですねー。予告編しか。
調べていたら『フォースの覚醒』で廃品買い取り商人の役だったんですね。あのヴォルデモートみたいな?わかりませんよぉ

原作はフランスの精神科医の著作ですが、経験譚なのかな?
上司に、中国へでも旅行しようかと相談していると、絶妙のタイミングでドラの音が響き渡る。ゴォォォォン
ええ?と音のする方を見やると、職員がスチールのお盆を落とした音だったという場面は大笑い。
ガランガランガラン

他作品の演技や同じ共演者などを引きずることは作品の魅力を半減させる愚だと思って、意識してないつもりなんですが、ロザムンド・パイク演じる恋人クララの、快活で誰にでも愛される人柄や母親のように気が効きすぎる世話好きぶりに、裏があるような気がしてしまいましてね。満面の笑みにどこか病的な陰があるようで。せめて髪型とメイク変えればねぇ
『ゴーンガール』の印象が強いというよりもなんか、このひとあんまり変わらないような・・・

で、このヘクター氏が、精神科医として忠実に悩めるひとたちばかりに向き合いすぎてしまうのか、需要と供給のバランスか、しあわせとはなにかってリサーチする旅に出ようと決心するわけです。恋人からも距離を置いてみようと。
患者に向き合っているときは心を開けそうな医師なんですが、白衣を脱いだら途端にどこか抜けてる。
これは恋人がいろいろ世話してあげなきゃと心配するであろう頼りなさ。
後に著名な脳科学者が幼稚なと驚くほど。
無邪気な子供みたいに天然な素が出ちゃう。このギャップが可笑しい。

イギリスから、遠く異文化世界を選ぶんですね。中国、チベット、友人のいるアフリカ、そして元カノのいるアメリカ。
とまどいながらも送りだすクララ、「もっとソックス持っていけば?」
「そんなにソックスばかり持っていっても・・・」
クララが開けた引き出しにはもう2-3枚しかソックス残ってないのよ~
で、彼女からのサプライズプレゼントで、トラベラーズノートが荷物に忍ばせてある。ヘクターは喜ぶんですが、1ページ目にメッセージと共に自分の写真なんて貼るのをパイクがやると恐いよぉ(笑)
このノートに旅のテーマである「幸せ」についてリサーチして、心に残る言葉や学んだことを書いたり、風景を描いたりする。いいなぁ、写真ばかりじゃなくノートにスケッチまで記すって。
後にちらっと映るんですが、彼、就寝時にブリーズライトみたいな鼻腔拡張テープが必需品のようで、使用済みのテープもホテルの名前なのか何か書きこんで、ノートに貼ってあるのが可笑しい。

彼が出会った人たちの「幸福論」の言葉自体はチベット僧侶の格言以外、個人的に響くものは無いんですが、イラストがとても魅力があってよかったです。そこに実写重ねたり動かしたり。
(しかしカノジョの写真が貼ってあるノートに浮気の証拠ともなるようなイラスト描くってどうゆう神経?)
この絵は監督のかなぁ、サイモン・ペグも描けそうだけど。

座席が重複発行されるミスによって、図らずもビジネスクラスに移動となってごきげんのヘクター氏。
はしゃいでわちゃわちゃしてるもんだから、ウエルカムシャパンのグラスを床に落としちゃう。「割れない材質ですからご安心を」と客室乗務員に言われるや、お皿はどうだと試してみてガッシャーン。子供かっ。
空港出て地図広げているところに隣席だった社長さんが声かけて、だら~っと伸ばした地図が脚に絡みそうになって通りかかったカートに躓く。バゲージラッピングに自分まで巻いちゃう。ミスタービーンかっ。
d0109373_13392445.jpg





ノートに描き込む都度ペンを探して、隣り合わせた社長からは「必ず返せ。このペンはおまえの車1台分だ」と言われたりするんですが、こんな他人にはめんどくさいとこが後に命を救うことにもなる伏線となってるのも面白かったです。ネーム入りでよかったね。

チベットでは、寺院を訪ねて「幸せとは?」なんてインタビューするも「月曜は定休日」と素気無く扉を閉められちゃうんですが、老師に温かく迎え入れてもらう。
ポタラ宮のような奥地で、達観した老師の含蓄ある言葉に、そこにあるそこだけの「しあわせ」を知る。
経済発展著しくもいまだ貧富の差があるのを痛感した中国から、迫害を受けているチベットへ行くというのが面白い。中国では公開されないかもですね。
チベットの場面はとても良かったです。
パラボラを立てるのを手伝う夕暮れ時のシルエットも美しい。
質素だけれど心の豊かさがあることを知るのですが、ここが結構近代的。
若い僧侶がスクーターですい~っと走り抜けて行ったり
「え!skypeできるのー!?」
d0109373_20531255.jpg





在る時、老師が呼ぶので外へでると、風が吹いてタルチョがはためいている。
タルチョの下で僧たちは歓声を挙げて飛びまわっている。
老師曰く「これがすべてだ」
この時の抜けるような青空と五色のタルチョがとても美しくとらえられていました。
d0109373_20585630.jpg





この老師に中国からの迫害についても尋ねますが
「不幸を避けることが幸福ではない」
ひとは誰もしあわせになる権利があるんですねと言えば
「もっと上だ」
「しあわせになる義務がある」と。
d0109373_210010.jpg





政情不安定なアフリカでは、厳しい医療環境を体験して、精神科医はここではなんの役にも立たないと痛感するんですが、病気の子供に向かっておどけてみせて笑顔を引き出すことができる。
ロス行きの機内では「お客様の中でお医者さまはいらっしゃいますか?」となり、重篤な容態を押して親族に会いに行く女性に出会う。痛みの負担を和らげるために高度を下げさせ、横になりやすいようにファーストクラスに移させる。
そして最期の時が近付く覚悟と哀しさを語る女性に寄り添い、心の負担も軽くしてあげる。
空港に到着し、女性の無事を知らせる機長のアナウンスに、乗客一同から拍手が起こる。
ファーストクラスにまで届くその拍手に合わせて、女性に向けて小さく拍手してみせるヘクター先生。
この拍手する場面が特に良かった。
女性は感謝を込めて「話しを聞くことは愛情を示すこと」だと、笑顔で救急車に運ばれていった。
「しあわせとは天職に就くこと」。アフリカの診療所で働く友人の言葉が甦るわけですね。

ラストは予想通りなのですが、ノートのイラストとチベットと機内の場面はとても心に残りました。
若い頃のアンソニー・ホプキンスに似てる?と思いましたが違いますかね。



映画
by august22moon | 2016-04-28 23:00 | 映画 | Comments(0)


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