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コクーン 『タンゴ -TANGO-』 10日ソワレ観劇

【あらすじ】
散らかり放題の部屋で、アルトゥル(森山未來)は怒りに打ち震えている。賭け事に熱中し、アルトゥルの戒めもどこ吹く風の祖母エウゲーニャ(片桐はいり)。万事が事なかれ主義の叔父エウゲーニュシュ(辻萬長)。しかし最も許しがたいのは、彼らと共にトランプに興じている野卑で無教養な男・エーデック(橋本さとし)だ。若かりし頃〝破壊と解放〟を旗印に、〝伝統〟を破壊しつくした父・ストーミル(吉田鋼太郎)は今や嬉々として実験演劇を繰り返す。女盛りの母・エレオノーラ(秋山菜津子)はこともあろうにエーデックとの男女の仲を鷹揚ににおわせる。堕落しきった皆を救うべく世界秩序の再建計画に邁進するアルトゥルを惑わせるのは、美しい従妹・アラ(奥村佳恵)の存在だ。理論が通じないアラの奔放さに手を焼きつつ、彼女と〝伝統的な手法で結婚〟をすることで家族に一泡ふかせようと、滑稽で熱心なプロポーズをはじめるが・・・。暴走するアルトゥルは【秩序】と【愛】を手に入れることができるのか!?

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【カーニバルの小さな行列】

人気の役者さんが揃って、立ち見も出て満席の盛況。
カメラも入っていましたが、放映時アングルに工夫が必要になるんじゃないかしらな、鋼太郎さんの実験演劇場面もありました。客席は爆笑でしたけど。

ポーランドの作家ムロジェックの不条理劇ですが、凄く面白かったです。
舞台美術は串田和美氏で、実はそれも楽しみでした。この舞台装置がとても美しかったです。
アクリル製の透明な家具。正面と左右に可動式のアクリル製の大きな箱があり、これが部屋の壁になっています。表面には白い線で鏡や棚がデッサンのように描かれていて、この白い線画がまた可愛らしい。パリのカフェみたい。
照明は最初のうち、いくつかの電球が下がっていてそれをひとまとめにしてあるんですが、これが強くきれいな陰翳を生んでいました。船に使われるデッキライトでしょうか。
美しい舞台セットと魅力的な役者さんたちの演技で、とかくすんなり入り込めない不条理劇も、リラックスして楽しめました。

家族との議論というより、延々と捲し立てるアウトゥルの自論で芝居が進むんですが、膨大なセリフであっても、言葉が一語一語浸みこんでくるようでした。
家族という設定もつまりは国家とか社会の縮図であることは明白。65年のワルシャワ初演ではいかにもセンセーショナルであったろう内容で、むろん難解な論証にもなるんですが、森山未來さんは言葉ごとに豊かな表情があってそれが決して飽きさせず、軽々と時代を超えて普遍的問題であることをしなやかに表現して巧かった。
いや、巧いというか、楽しい。

鋼太郎さんは、前衛演劇人でリビングで実験演劇なんか披露しちゃう、どこかピントがずれてる惚けた男なんですが、これが鋼太郎さんの巧さで可笑しくて。
母とエーデックの関係を直視しろと息子に責め立てられてものらりくらり。
この場面での鋼太郎さんが傑作。
夜中にアルトゥルが起しにいくと、部屋の奥でライトをぐるぐる回して何かしてる。
ここで観客は既に爆笑。呼ばれて出て来た姿はパンツ一枚。パジャマの上だけとりあえず羽織って、首からはなぜかデッキライトをぶら下げている。このライトは長いコードが繋がっているんで動き回ると椅子を倒しまくるんで、遂には途中のコンセントが抜けちゃって。アルトゥルを見返しながらコンセント嵌めなおすのも、決意を表すように見せて場内また爆笑。

エーデックは原作では野卑で無教養な小作人という設定ですが、橋本さんのエーデックは妖しく小賢しい危険な男に見えました。
エレオノーラが彼のことを全てが絵になるとその魅力をうっとりと語るのも頷ける。
これではストーミルならずとも卑屈になっちゃうでしょうってかっこよさでした。

舞台美術を活かして、演出も実験的に凝っていました。
冒頭、暗がりの客席通路を演出の長塚氏がゆっくり降りて来て、舞台全面に置かれたアクリルの壁をドンドンと叩くと、それを合図に壁が上がったり。
セットに寄り掛かって芝居をみつめたり。演出スタッフの姿もわざと見せたり。

さらに珍しかったのはエンディング。
「ラ・クンパルシータ」の音量がぐんぐん上がって暗転。カテコはありませんでした。
観客は拍手のタイミングを外され、戸惑いながら終演アナウンスを聞くことになりました。
舞台上に演者ではなく登場人物だけを存在させたわけです。

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by august22moon | 2010-11-12 01:49 | 観劇 | Comments(0)

出会った本、映画の感想。日々のこと。


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