2010年 12月 09日
マイケル・ホフマン監督作 『終着駅―トルストイ最後の旅―』
ようやく地元上映です。
先日、「ジェイン・オースティン秘められた恋」を見たことでジェームズ・マカヴォイ目的になりましたが、たいへん見応えのある作品でした。
マカヴォイは、秘書として文豪の下で働けることに歓喜雀躍する夢と希望に満ち溢れたトルストイ主義の青年ワレンチン役。コミューンへわくわくして向かうようすも微笑ましい。
そのくるくる変わる活き活きした表情が、魅力的です。
文豪が歓待してくれたことに感動してサファイアのような美しい瞳にみるみる涙を浮かべる表情なんて、一気にこの青年の純粋さに心奪われてしまいます。またこの場面マカヴォイ、どアップなんです。
依頼主チェルトコフはトルストイの一番弟子なんですが、トルストイの『復活』の発表でロシア正教会からも目を付けられ自宅軟禁中なので、先生や夫人の言動を逐一書きとめて知らせろと言いつけられています。
ところがこの純朴な青年はトルストイの作品のことばかり書いてくるので、夫人の動向が知りたいのに!とチェルトコフから怒られるんですが、それでもキョトンとしてる。
緊張するとクシャミがでる体質で肝心の初対面の際もハグされてびっくりしてクシャミしちゃったりする。
ランチの最中に夫妻の言い争いに合った時もクシャミが出始めるんですが、益々ヒートアップする諍いに必死に鼻つまんでクシャミ止めてる姿が可笑しい。
トルストイも優しいおおらかな人柄に描かれていて、ワレンチンがクシャミする度にいちいち「God breathe you」。
次第に元々喜怒哀楽の激しい夫人が遂には常軌を逸した行動に走っても夫を取り戻そうとするのに、振り回され始めます。
チェルトコフからは彼女は夫の遺産で贅沢しようとしてるなんて吹き込まれるし、実際ヒステリー起してお皿割りまくったり、窓をつたってバルコニーから夫の部屋の話し合いを覗き見たりする。
ところが、恋をし始めたワレンチンに恋愛の尊さを解いたり、「戦争と平和」は私が6回も清書したなんて聞くと、すべて純粋に夫を愛している故なのかもと思い始め、全作品著作権を放棄させ、主義主張を貫かせようとするチェルトコフと、夫を全身全霊で支えてきて家を守ろうとする夫人との間で揺れ動くんですね。
最後、偶像として祀り上げようとしていると怒り悩む表情も印象的です。
「つぐない」や「ジェーン・オースティン」でも見せた苦悩の表情は雄弁で、こちらまで苦しくなるほどです
大好きなブロガーさんが「ペネロピ」のころからマカヴォイに注目されていたのも頷けました。いいですね彼。確かにすごく気になる。トビー・マグワイアとキャラ被ってる?なんて思ってましたが、完全に凌駕。
なんとこの時代にパパラッチならぬカメラマンが邸宅の庭先に何人もいたんですね。
トルストイが最期を迎え後に駅名もレフ・トルストイ駅に替えられたアスターポヴォ駅前も、報道陣のテント村と化します。
ソフィヤも人目もはばからぬ行動をとるから全部報道されてしまい、マスコミの格好の餌食になって、悪女のレッテルなんて貼られてしまったんでしょうね。
ヘレン・ミレンが演じるからか、でしゃばりすぎではあるけど長年連れ添った夫婦なんだから同情もできる、と思えてしまいます。
クリストファー・プラマーの外見を見事に文豪そのものに創り上げているので、最後のスタッフロールで当時の実際の映像が挿入されますが、見紛うほど。
理想と現実に葛藤する文豪が乗り移ったようでした。
それにしても偉人の最期はあまりにも哀れです。出て行くしかなかったのか。しかも三等列車で長旅なんて。
夫人が仕立てた特別列車が大勢の人々に見送られたのがせめてもの救いです。
皆ロシア訛りで喋っていたように聴こえました。ってロシア語はニュースでくらいしか聴いたことないですが。マカヴォイは特に。
初夏のロシアの景色も美しかったです。
アメリカ作品ならアカデミー賞ノミネート作にもなったでしょうね。