2011年 08月 06日
キャメロン・クロウ監督作 『エリザベスタウン』
【あらすじ】
仕事一筋に情熱を燃やしてきた大手シューズ・メーカーの新進デザイナー、ドリューは、社運を賭けた新型スニーカーを発表するが、商品の返品が相次ぎ、プロジェクトは大失敗。会社を解雇されてしまう。夢に破れ、生きる気力を失ったドリューは、自らの人生を終わらせる覚悟を決めるが、命を絶とうとしたまさにその時、疎遠になっていた父の訃報が飛び込んでくる。失意の中、葬儀の準備のために父の故郷・エリザベスタウンへ向かったドリューだったが、そこで地元の人々とのふれあいや新しいロマンスを通して、少しずつ心の傷を癒していく。
オーランド・ブルーム主演で、もう6年も前になる作品。
キャメロン・クロウ監督が脚本も書いていて、自身の経験を基に書かれたようで、かなり思い入れが全面に出た作品ですね。
ドリュー(オーリー)が挫折のただ中で父親急死の電話が入るのは、まるでお父さんが救ってくれたようです。
葬儀の準備にと一足先に着いたエリザベスタウンは、レンタカーだからなのか、沿道の人々が黙って葬儀社の方角を示してくれる。
この街で父親がどんな存在だったかが分かる場面ですが、この時の戸惑いながらも感謝の思いで手を振り返すオーリーの表情がとてもいいです。
なんとこの街はミッチ寂しくなるよなんて看板まで出すほど情に厚いんですが、出て来る住民はみんないい人ばかり。昔詐欺を働いたなんて人もいますがどうも改心しているようすだし。
おかげで、穏やかで心和む葬儀が行われます。
追悼パーティーでは張りぼての鳥が発火して大騒ぎになりますが、スプリンクラーのシャワーの下で演奏を止めないバンドの曲に乗ってラインダンスしながら逃げるなんて人たちもいる。
心底憎めないひとたちばかり。
このケンタッキー州のエリザベスタウンは監督自身の故郷だそうで。ふるさとはありがたきかなという思いがあるんでしょう。
行きの飛行機で知り合った不思議ちゃんなCA・クレア(キルスティン・ダンスト)の積極さに乗ってしまうんですが、失恋したばかりとはいえ、父親の葬儀の時にこうゆう隙間が発生するもんですかね?
・・・あるんだからしょうがないか。
ところが、「私たち付き合ってもいないじゃない」と言って、お互いに失恋後の隙間を埋める相手が欲しかっただけよ。と別れを切りだされるんですね。
父の遺言にしたがって海に散骨するため車で出発するドリューにクレアは、迷わないようにと地図の入ったケースを渡す。
中には手作りのガイドブックが入っていて、名所や彼女お気に入りの店などが写真や切り抜き、手書き地図で作ってある。
その場所に合うBGM用のCDまで貼り付けて。
自分の失敗で損失を出したことが発表された雑誌を見たり、父親とのことを思い出したりして、辛い旅にもなるんですが、その都度その可愛らしく思いやりに溢れた自分だけのために作られたガイドブックが救ってくれちゃうんです。
こんなもの作られたら、当然参っちゃいますよね。
いつそんなの作る時間あったの?って思いはしましたが。
で、最後に「世界第二のマーケット」で待っている。アバンチュールに終わるのかどうか賭けてみるんですね。
演じるのがオーリーだと、真剣に決まってるじゃない!って感じてしまいますが。
クレアは、最初に機内で出会った時からこの青年の深い傷が分かっていたんじゃないかと思うんです。唯の一目惚れじゃなくて。
ドリューが父は元気だと答えた時、クレアがアップになるんですが、この時の目がとても慈しみ深い憐れんだ目になってるんです。
彼女自身にも深い傷はあって、だから分かったんでしょう。
こうゆう作品って観る人によってほんとうに賛否あるでしょうね。
喪失感も絶望も救いも気づきも人それぞれ受け止め方はまったく違うから。
監督自身もそれを承知で作ったんでしょう。
父のお骨を故郷の福島まで抱えて行った時のことを思い出しました。電車を乗り継いだ道中ずっと抱えていたら翌日筋肉痛で。重さは感じなかったんですが。お盆が近いからこんなこと書く気になっちゃたのかしら。震災からお参りに行けないままになってるし。
こうゆう、いいひとばっかり出て来る映画もたまにはいいと思いました。
母親役はスーザン・サランドン。複雑な役どころを愛すべき女性に描いてみせて拍手もの。
この役はジェーン・フォンダも予定されていたそうですが、S・サランドンで良かった。
オーリーの優しい眼差しがいちいち胸に刺さる映画でした。
彼のハムレット、映画化されないかしら。