2012年 09月 08日
黒澤明監督作 『蜘蛛巣城』
「マクベス」をベースに、能楽のテイストを所作のみならず随所に用いて、明らかに海外向けに日本の様式美で魅せた作品ですね。
荒野の魔女は「黒塚」、館の内も能舞台のようで、渡り廊下は橋がかり。壁板に残る血痕はまるで鏡板の老松。
ダンカンにあたる城主・国春暗殺場面は、マクベスの鷲津武時と妻・浅茅が居るこの能舞台状の室内だけで槍を持ちだすことだけで表され、動きはまったく能の五番手もの。
『羅生門』でも黒澤監督がキャスティングを希望していた山田五十鈴さんが凄い。
能面のメイクで、まさに能面の無表情に微動だにせず、夫・武時を煽り追い詰めてゆくようすが、3人の魔女より恐怖。擦り足で動くと聞こえる衣擦れの音も異様さを醸し出しています。
これは、手を洗う場面は期待できちゃうわーと楽しみにして見てました。
それまで抑揚のない語りだったのが一転、「いやな血だねぇ」「ちっとも落ちやしないよ」と呟いて、その変容した表情も相まって、今まで見たどのマクベス夫人より狂気。
実際に矢を射られたということでも有名な場面は、離れた位置に打たれていたと言われていますが、かなり近そうですよ。
最初の腕すれすれに刺さった一矢に、三船氏が目を瞬かせたのは、思わず、というところでしょうか。
素晴らしい迫力。
W・フリードキンも、実際に発砲音で驚かせたり、付き飛ばされる場面で女優が背中痛めるほど思いっきりワイヤー引っ張ったりしてよりリアルな表情を追求したようですが。・・・どうなんでしょうね。そこまでも演じようとしてる俳優さんにしたら複雑かも。
黒澤映画ではお馴染みの、荒涼たる野の城も森も水墨画のよう。
アーデンの森が動く場面は、兵士たちが森の木をカモフラージュに靄の中を前進してくるのも、異様さが迫ってきました。
堪能しましたー。ただ、三船氏のセリフが聞きとれないのが無念。
野太い割れた声で「◆※△Ψ★◎ だー!」みたいな。
思えば初めてスクリーンで見た黒澤作品は『影武者』。初めてスクリーンで見た時代劇でもありました。
人間の愚かさとか儚さを描いているにもかかわらず見終わった後に残るのは豪快で壮大な映像美の爽快感。
(ああ、隆さん撃たれちゃった~なんて思っても)
それでも、枝の張り具合とか着物の裾に至るまで繊細さも感じます。
WOWOWで黒澤作品連続放映しているので、『乱』も改めて見ましたが、『隠し砦の三悪人』も全編初めて見ました。
あのガレ場を何度も登っていく場面、あれ草鞋履きなのに、役者さん大変。
姫役の女優さん、セリフはイマイチでしたが、段々可愛く見えてくるものですね。
これ私の初シェイクスピアです。暫く観ていないので読んでいて懐かしくなってきました。スクリーンでフイルムで観たい作品の一つですが、もう無理だろうな。時々生まれるのが遅すぎたと思います。
「マクベス」はどうアレンジしても面白いですね。
黒澤作品はやっぱりスクリーンで見たいですね。
「影武者」「乱」「夢」「八月の狂詩曲」「まあだだよ」は見たんですが。
「用心棒」なんて特にスクリーンで見たい。
名画座みたいな映画館があるといいんだけど。地元にはなくて。