人気ブログランキング | 話題のタグを見る
NEW POST

中島京子著 『小さいおうち』 文藝春秋刊

小さいおうち

中島 京子 / 文藝春秋



【あらすじ】
昭和6年、若く美しい時子奥様との出会いが長年の奉公のなかでも特に忘れがたい日々の始まりだった。女中という職業に誇りをもち、思い出をノートに綴る老女、タキ。モダンな風物や戦争に向かう世相をよそに続く穏やかな家庭生活、そこに秘められた奥様の切ない恋。そして物語は意外な形で現代へと継がれ・・・(文藝春秋HP)


第143回直木賞受賞作。
古書店カフェ『weekend books』さんで出会って、読んでみました。
お友達fgさんが先に読んでらして。面白そうと思っていましたが、こんなに面白いとは。
あーもう読み終わっちゃうーと思いながら読んでました。
とにかく構成が素晴らしくて、時間軸だけでなく主人公も変わってゆく。
物語は「タキさん」の回想で進みながら、ストンと現代に戻って甥の息子が口を挟んできたりする。
このタキさんの回想も突然終わってしまう。そして残った謎は甥の息子が解いてゆく。
このリズムがとても心地よかったです。
文脈も落ち着いて柔らかくて滑らかで。

「小さい」けれど、立派な「おうち」で、真面目に愛情を持って文字通り奉公してきたタキさん。
小さく切って焼いた油揚げに山葵漬けをつめてお醤油をひと垂らししたもの。
コンビーフをサイコロに切ってお葱といっしょにちょっとあぶったもの。
お酒と甘いものの多いおせちの締めに合う、炊きたてのごはんとお味噌汁と香のものとさっぱりした大根おろしに鰹節で和えた数の子を切って載せたもの。
ゼリー型で抜いてグリーンピースやコーンで飾った、ケチャップで甘くしたハムライス。
焼酎に漬けこんでおいた干し柿を寒天で固めたお食後。
牛乳が不足してくると豆乳を代わりに使い、独特のにおいとコクのなさを補うために白味噌と炒めたベーコンを使ったシチュウ。
焙烙で炒った手作りのピーナッツバター。

ささやかなのにとっても美味しそう。

いつしか、この甥の息子に向けて記すようになるんですが、読者が出来て筆が進んで、語るべきことを遂に語るタキさん。
その深い愛ゆえに遂に決心して行動に出る場面は、この戦時中にあっても穏やかな時間の流れた日々に、まさに反乱。

「およしになったほうがよろしゅうございます」。

家を守るため、全身全霊の言葉に読者も立ち竦みます。

届けられなかった手紙。
あの和紙の未開封の。
タキさんがなぜ生涯持ち続けていたのか。
板倉さんは訪ねて来たことになっているのに。

そこで私、映画『つぐない』を思い出してしまいました。
あのイアン・マキューアンの『贖罪』の。

タキさんがまさに墓場まで持ってっちゃったので、すべては謎のまま。

Commented by fg_garden at 2012-12-11 21:54
うわ、お姉さんに読んで頂けて嬉しい!

ここ何年か読んだ作品の中では一二を争う完成度の高さではないかと。
図書館で借りたんですが、思わず買ってしまいました。

「つぐない」ああ、なるほど。
作者の神の視点が入るところが納得です。

お姉さんの近くに住んでいっぱいお話したいw
Commented by august22moon at 2012-12-12 00:26
やっぱりfgさんの選択眼が素晴らしいと思いました。
もうね。fgさんのおっかけです(笑)
人気作なのにライトノベル的だったり、ちょっとがっかりな小説に当たってしまうことが多かった中、確かに「完成度高い」作品でしたね。

そうなんですよ。fgさんが仰っていた「神の視点」論。
あの的確な言葉がもの凄く印象的で。
ああ、これってもしかしたら・・・と想像してしまったの。

私のほうがそちらのご近所に住みたいよぉ(笑)
愚痴聞いてもらったりさ(笑)
by august22moon | 2012-12-08 00:27 | 読書 | Comments(2)

出会った本、映画の感想。日々のこと。


by august22
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31