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トーマス・マッカーシー監督作 『扉をたたく人』 wowow放映

トーマス・マッカーシー監督作 『扉をたたく人』 wowow放映_d0109373_211216.jpg【あらすじ】
愛妻に先立たれ、心を閉ざして孤独に暮らしていた大学教授のウォルターは、学会出席のため久々にニューヨークにある別宅のアパートを訪れるが、そこにはいつの間にか見知らぬ移民の男女が暮らしていた。シリア出身の青年タレクは“ジャンべ”というアフリカ発祥の太鼓の奏者。ウォルターはタレクからジャンベを習い始め、2人は次第に心を通わせていくが…














心に沁みる映画でした。
ウォルター役のリチャード・ジェンキンスが第81回アカデミー主演男優賞候補。
『ミルク』のショーン・ペン、『レスラー』のミッキー・ロークの年では不利でしたが、苦虫を噛みつぶしたようないかにも大学教授か経済学者という風貌で、さすが名脇役だけのことはある、佇まいで魅せる演技が素晴らしかった。
自然に彼の目線になれました。

徐々に、妻が生きていたころの音楽のある生活を取り戻したいのだと気付かせるのも、セリフで説明せず、映像の流れで表されました。
妻と同じピアノではなく、‘音楽’は意外なところからやって来て、それがアフリカの打楽器ジャンベ。
この軽やかで熱を帯びた音に魅かれてゆく過程も微笑ましい。
打ち合わせの最中まで密かに机を叩いたりするほど夢中になってゆく姿に、こちらまでリズムに乗ってみたくなります。

久し振りに戻った無人のはずのアパートの扉を開けると、先ず気付く花の香り。
そして目に飛び込んできた花瓶に活けられた白いフリージア。
これは、タレクの恋人が飾ったので驚きを持って気付きます。
コネチカットから帰ってきて最初に気付くバラの香り。
これは、部屋を貸りていたタレクの母が飾ったオレンジ色のばら。
赤やピンクでないところが控え目なこの女性らしい。
迎えてくれるひとが居る嬉しさを伴って、ん?花の香り?って感じで入ってくるようすがとってもいい。

9.11以降の悲劇は、中東出身というだけで危険視されてしまう移民たちにも起こっている。
あの日以降、厳しく成らざるを得ない移民問題。 
すれ違ってゆく自由の意味。
なんとか釈放させようと奔走するも、突然シリアへ強制送還されてしまう。
拘留センターの職員に食い下がっても「窓口から離れて」と取りつくしまもない。
ウォルターの叫び、「なんと無力な」が胸に突き刺さります。
せっかく開かれた扉はまた閉じてしまうのだろうか。
ここには奇跡は起こらない。叫びは壁に吸い込まれてしまう。無情な法の下に人々は翻弄され耐え従うしかない。
ああ、あそこへ行ってジャンベ叩くんだろうなと予想通りのラストですが、ウォルターの無常感や怒りや涙が、ジャンベを打つその腕に見えるようでした。
アップにはせず、引きの絵もよかった。


映画
by august22moon | 2013-02-16 00:13 | 映画 | Comments(0)

出会った本、映画の感想。日々のこと。


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