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新田次郎著 『縦走路・先導者』 新潮社刊

新田次郎著 『縦走路・先導者』 新潮社刊_d0109373_20304577.jpg全集で読みました。
表題作を含む11作の短編集。
カフェ『つきさむ』さんで新田作品の文庫を見たのが切っ掛けで読み始めましたが、たいへん面白かったです。


「縦走路」
夏の北アルプスで出会った女性登山者に惹かれたふたりの男。旧友でその女性への嫉妬から3人を翻弄させる女性。冬の八ヶ岳縦走・春の北岳胸壁登攀を背景に4人の男女の愛憎が絡み合うドラマ。
「先導者」
夏の上州・越後の国境縦走への提案者である友人が参加を取りやめた為に、初心者同然の女性4人を1人で引き連れて行くことになった男性。予定も遅れた4日目、遂に天候が悪化し、暴風雨に遭ってしまう。
(これはもう、女たちが我儘だわお気楽だわで、リーダーが気の毒すぎます。)
「寒冷前線」
雲取山から下山し、鷹巣山にかかった4人。俄かに天候が悪化し吹雪の中で立ち往生してしまう。2人が救助を求めて下山。極度に疲労した1人と共に残ったリーダーは過労からくる幻覚に襲われてしまう。
「白い壁」
冬の志賀、笠岳で大学山岳部5人のパーティーのうちの2人が雪崩に遭ってしまう。
「登りつめた岩壁」
山岳会に所属する男が、入会したばかりの男女2人と共に谷川岳幕岩登攀へ。
2人がしきりに入会を希望し、谷川岳に誘ったのには理由があった。これも、山を背景にした男女のドラマ。
「気象遭難」
所属する山岳会の規約を破ったと謝罪を求められていた男。不満は募り、会のパーティーに先んじて冬の白馬登頂を急いで、吹雪に遭遇してしまう。
「疲労凍死」
冬の八ヶ岳で疲労凍死と診断された男の恋人は、同行した友人の行動に不振を持つ。静かに送りたいと願う兄も、弟の遺書ともいえるメモを見つけ、次第に疑惑を持ち始める。
(山男の尊厳を描いた推理ドラマ仕立てで、判読不能な文字を解明するところなど面白かったです。)
「雷鳴」
天候の急変で登山計画が崩れたことで、頼りなさを露呈した男を冷静に見極める姉妹。
(これはちょっと男性がお気の毒なお話し)
「薬師岳遭難」
極地法登山のトレーニングで来た大学山岳部のパーティー。他大学山岳部が真っ直ぐ登頂するのを見て競争意識が芽生えた支援隊メンバーは、リーダーの指示を無視してキャンプに引き返さず頂上を目指してしまう。ようやく引き止めたが、メンバーのひとりが雪庇に乗って転落。救助している間に天候は急変し吹雪に巻き込まれてしまう。
「雪呼び地蔵」
福島県吾妻連峰。滑川から微温湯まで8時間のハイキングを予定していた女性3人。ひとりが宿の玄関に無造作に挿された紅葉の一枝を見て、紅葉がまだ残っているなら見たいと言い出す。結局紅葉は終わっていて、リーダーが懸念したとおり余計な時間を取ったために頂上に着く前に雪が降り出し、吹雪に遭ってしまう。下山を提案するも、ふたりは頂上のヒュッテのほうが近いと聞き入れず3人は分裂してしまい、それぞれが吹雪とガスで方角も分からなくなってしまう。
(結局、遭難の原因となった宿に飾られた紅葉は造花だったんです。11月の山を甘く見ちゃいかんということですな。最後、2人がそれぞれ近くで亡くなっていて、リーダーはそこから離れた場所で亡くなっていた。まるでリーダーはその責任を全うし道を探しに行き残った2人は指示通り動かずに待っていたように見え、遭難時の基本を守っていたと皮肉な捜査結果になります。)
「風が死んだ山」
立山から槍ヶ岳にむかう途中の双六池でキャンプを張った女性2人を含む5人のパーティー。
夜、テントの外で歩き回る足音や水を飲む音がするので、一同は騒然となる。
そのうち、ヤッホーという声まで聞こえ、近くでキャンプしていたパーティーも驚いて出て来る。
遭難者の幽霊が出たと戦慄するんですが・・・。


気象学者でもある著者ですから、山の描写以上に、天候の崩れてゆくようすが詳細。
ドキュメントノベルかもと読み進んでしまいました。
山々やルートの描写は、地図や実際に行かれた方のブログ掲載写真などで確認しながら読みました。
ヤブ漕ぎって?谷川岳幕岩って?とか。
どの方も山を堪能されて羨ましいほど。気持ちいいんでしょうねぇ。

作品は昭和30~40年代が舞台ですので、山小屋もかなり厳しい状態。
無人の小屋や石室に宿泊するしかなく、燃料も確保する必要から火もなく寝袋にも冷気が偲びこむ中で寝なくてはならない。
現在は小屋とはいえ外観は近代的。
雑魚寝のところもまだあるようですが、それは当然なんでしょうね。

いずれの作品も、極限状態に於けるひととしての在り方や尊厳の意味を問うものです。
改めて山の変わり易い天候の怖さも痛感しましたが、それ以上に恐いのは思い込みや楽観や人間関係。
せっかくここまで来たのだからという欲望。虚栄心。極限状態となるとちょっとした性格の違いが大きな亀裂となり軋轢を生じる危険。
果たして自分は?、気丈で在れるか、冷静で在れるか、相手のことをどこまで思えるか。

景色は素晴らしいのでしょうが、体力ないので登山する気はまったくありませんが。
山を甘くみない、無理はしない、睡眠と食事は充分摂る、ここを動くなと言われたら絶対動かない、と肝に銘じたりして。

by august22moon | 2013-02-18 21:59 | 読書 | Comments(0)

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