2013年 02月 28日
ベン・アフレック監督作 『アルゴ』
カーター政権下でイランの米大使館員が人質になった事件のことも、奪還作戦の失敗も要因ともなってレーガンに敗れた後、ホワイトハウスを去る日になって人質が解放された、という記憶だけはありました。
宣伝に表現されるほどには荒唐無稽とは感じませんでした。折しも『スターウォーズ』大ヒット後、世界中でSF映画ブームになっていた時代に於いて、ロケハンを入国理由にするのが一番説得力があるし、マスコミも動かし易いので偽造ねつ造もし易い。まだネットが普及していなかった時代の助けもあるし。
GG賞で作品・監督賞、アカデミー賞作品賞受賞作。
プレゼンターがなんとオバマ夫人でホワイトハウスから中継となったのは、偶然とは思えないような演出になってしまいました。
映画の中で登場するイラン国内の反米活動は事実を基にした描写であることをラストに明示していますが、事実を基に演出されたエンタテインメントとして見て、非常に面白い映画でした。
救出劇の映画は珍しいものではないし、この作品の展開も決して珍しいところはありません。事実だとしても。
トム・メンデスはCIAの救出専門家であるので、常に冷静で視線すら揺らがないのは当たり前なんですが、救出作戦自体、空港へ到るまでが決して観客を煽ることなく進んでいきます。
落ち着いたトーンで。
空港に入ってから、全ての危機が一気に起こってしまい、全ての奇跡が一気に起こるクライマックスはやっぱり入り込んでしまいました。
空港へ向かったことを聞いて、奔走するCIA。
ゲート直前で民兵に呼ばれる大使館員たちのぎりぎりの緊張。
中止と聞いて呑みに行った帰りにロケに遭遇して足止めされるシーゲルとチェンバースが、制止を振り切ってしまうところは面白かったです。虫の知らせかソワソワし始めるところは、このふたりが何が起こるか分からない状況を充分把握していたことを知らせました。
よくぞ感が働いた!よく間に合ったー!なんて(笑)
普通は、早く!早く!と観客を焦らせるところで、メンデスの表情が冷静なせいか、音楽で盛り上げることもなかったせいか、冷静に見られてると思っていましたんです。
ところが、客室乗務員が受話器取って「イラク領空を出ました」の放送があったところで、大使館員やメンデスと共にほっとしてしまい、ここでやっと、もの凄い緊張していたことに気付くという・・・(笑)
離陸寸前の飛行機のエンジン間近まで迫って来てタイヤ撃ちそうになった時、近づきすぎてブッ飛んじゃえーとは過ったんですよ。
シャンペンが開けられる前に、シャンペンだー!シャンペンで乾杯だー!と心の中で盛り上がっちゃったですよ。
子供たち使ってまで顔写真探して、ゲート強行突破のあげく管制塔にまで雪崩れ込むイラン側が愚かに映るわけです。
呼び戻されて映画のことを尋ねられ、熱っぽく語り始めるのを、メンデスが安心したようなそんなことまで作っていたのかと苦笑いのように目だけで笑うのも印象的。
特殊メイクで既にCIAに協力していたチェンバースはともかく、シーゲルが意気に感じ協力を決心する場面もさらりとした演出と芝居でアラン・アーキンの巧さも光りました。
「歴史は二度繰り返す。最初は悲劇として、二度目は喜劇として。・・・マルクスだ」
「グルーチョ?」
と、飄々とハリウッド(映画界)へ戻っていくのも痛快。
なぜかアラン・アーキンの顔って憶えられなくって。でももう憶えたぞぉ。
ここ数年、評価が芳しくなかったB・アフレック。
あまりに安っぽいSF映画に仕立てたあたりシニックな気もしましたが、終盤にはそんなハリウッドをも讃えているようでした。
受賞スピーチでは、「ジョーズ」流れたらどうしようとハラハラしちゃった。
でもちゃんと、みんながB・アフレックの言葉を待ってること理解してて。
「And it doesn't matter how you get knocked down in life because that's going to happen.
All that matters is you gotta get up.」。
胸に迫りました。
そして、何の得にもならない時も手を差し伸べてくれた人々がいたと感謝の意を述べた時、
オスカー持ってポケットに片手入れて微笑んで見つめてるプロデューサー・J・クルーニー。
なんて素敵。