2013年 03月 07日
ロバート・ゼメキス監督作 『フライト』
年配のお客さんも多くかったんですが、年齢が高い方って若いひとより反応が顕著なので、わっとかひゃっとか声があがる場面がありました。
内容は予想と違っていました。
もう少し航空機事故について重きがおかれているのかと思っていたんです。
だから、事故の予兆や原因がプロローグとして流れるとか、事故責任の所在とか、公聴会で緊迫した応酬があるかと思っていたのに。
事故の原因は整備不良の一言で片づけられてしまいます。
アルコール検出問題も、誰かの策略なのかと思いきや、デンゼル・ワシントン演じるパイロットのウィトカーはアルコール依存症なうえに薬物にも手を出していて、最悪なことに操縦中にもジュースに混ぜて呑んでいる男。
‘ヒーロー’かどうかなんて、答えは冒頭に出ているんです。
『サブウエイ123』では収賄で、そこにまだ同情の余地がありましたが、今作ではまったくその余地なしです。
この映画の提起するものは、依存症の恐ろしさと愚かさの一点のみ。
病院で出会うニコールという薬物中毒の女性まで延々追っています。
乗客4人乗員2人の犠牲者を出した大事故は航空部門だけでなく親会社も存続の危機でしょうに、そちらは裏工作によって問題がすり替えられてゆく。
依存症者のダメさ加減をこれでもかと描写されるんですが。
その恐ろしさを描いた場面、ホテル内の場面は恐ろしかったです。
公聴会前日、弁護士と航空会社事故対策委員のチャーリーが手配したホテルに泊るウィトカー。
真夜中、コンコンと隣室でノックの音が何度も聞こえるので行ってみると、そのドアは閉め切らずにサムターンを回してデッドボルトが出た状態。
室内は無人で薄暗くなぜかテラスのガラス戸が開いていてカーテンが風に揺れている。
風でドアが動き、デッドボルトがドア枠に当たってコンコン鳴っていたんですね。
ノックのように。呼んでいるように。
で、普通ならなぜガラス戸が開いてるのか見に行くところ、ウィトカーの視線は冷蔵庫に吸い寄せられてしまうんですね。
もう9日も断酒していると自信満々に言っておきながら、冷蔵庫の中が全部ソフトドリンクに入れ替えられているのを見て溜息つくところに観客は、それ安堵のため息?と不信になってたことを思い出す仕掛け。
隣室の冷蔵庫のなかには、お酒がぎっしり。
悩んだ挙句、手にしてしまったミニボトルを冷蔵庫の上に置いて思いとどまったと思いきや・・・
ダンッ!という大音響とともにウィトカーの手がバッとミニボトルを掴むんです。
これは恐怖。
信頼も仕事も家族も愛人すらも失っていてなお、誘惑には勝てないのでした。
飛行機逆さになる場面より、恐怖。
100人からの命を預かる者として失格者のウィトカー。
メイデー真っ最中、操縦ヘルプに呼んだ客室乗務員マーガレットへ、ボイスレコーダーに向けて子供に呼び掛けておけと母である長年の友人を思い遣ったのがせめても。
ところで。
『アルゴ』もそうでしたが、字幕の位置が下なのにどうも慣れません。
横に比べて、映像が目に入らない気がして。