2013年 04月 10日
キャスリン・ビグロー監督作 『ゼロ・ダーク・サーティー』
CIAの女性分析官を主人公として、あくまでCIAの追跡劇として描いて、大統領も国務長官も国防長官も出て来ない。
イスラム教信者のCIA幹部、ウルドゥー語かの現地語を話せる中東系のネイビーシールズ隊員を出し、アメリカという国の複雑さを見せ、拷問場面やビンラディンの隠れ家急襲では子供たちに首実検させる場面も作り、プロパガンダ映画にはならないように勤めて表現しているようです。
それにしてもCIA長官(現国務長官)バネッタは好人物に描かれていますねぇ。
突入場面はドキュメンタリー仕立てで、緊迫感がありました。
(ステルス型ブラックホーク初めて見ました!しかもエリア51に在ったなんて!)
闇夜を行動する特殊部隊の映像と交互に、暗視スコープの見た眼映像も挟まれ、臨場感もありました。
作戦開始から終了まで手際良く遂行され、射殺したビンラディンを写真に撮るのも、作戦成功後に「For God and Country」と伝える声も無感情に聞こえました。
バッグに入ったビンラディンの遺体も事務的に運ばれ、歓声も鬨の声もなくひとりの兵士が安堵の声を上げるくらいだし、押収品を並べるのにちょっとジョークを言う程度。
それは百戦錬磨のシールズ隊員であるから当然なのかもしれませんが。
アメリカの宿敵を仕留めたにしては冷静。
それは、冒頭で真っ暗な画面にワールドトレードセンターから電話で助けを求めた人たちの声だけを流したところで充分に観客の感情を揺さぶっているのを、それ以上煽らないでいるようにもみえました。
同僚も被害に遭い、自らも狙われ、10年近くも追い続けて来たマヤにとっては万感迫るであろうところ、帰還用に手配されたC-130ハーキュリーズに乗り込んで初めて、涙ぐむ程度。
同僚の死による私怨のように見えてしまうのも含め、私は涙を流さないほうがよかったと思います。
パイロットに貸し切りだから好きなところへ乗せて行くとジョークを言われ、その温度差に愕然とし、行き場の無い感情が吹きだした涙は、ドキュメンタリーと見紛う場面から一気に「映画」に引き戻されました。
ジェシカ・チャスティンは、マヤという女性分析官の信念と情感を、硬質に演じて秀逸。