2013年 05月 15日
スティーブン スピルバーグ監督作 『リンカーン』
偉人である人物を描くのに、この映画は修正13条の可決への道程のみに絞り、家族間(特に妻と)のエピソードは端的に描かれています。
まさに南部の女という妻メアリー・トッドの気性の激しさなどはサリー フィールドが久々に真骨頂発揮という演技。
端々にスピルバーグらしいユーモラスな描き方もありました。
そのセンスが結構好きです。
随分と親切に、初めにスピルバーグ本人の解説があり、登場人物の氏名と派閥まで字幕で出ました。
議員の名前は勿論、保守派か急進派かなんて知らない私にはおおいに助かりました。
トミー リー ジョーンズ演じるスティーブンスなどは、この人物を知らない鑑賞者の為にラストになってようやくその隠された姿を徐々に見せていく場面は巧い作りで思わず感心してしまいました。
彼の信念と情熱の源はこれだったのかと。
こうゆう人たちも少なからず存在したであろうことを想わせ、それまで正に苦虫を噛み潰したような独特の表情だったのが次第に解けてゆくところなどさすがの印象を残しました。
実は、リンカーン家のメイド・エリザベス役のグロリア ルーベンに期待していました。
彼女はドラマ『ER』でHIVポジティブに罹患しながらも希望と誇りを捨てず医療の現場に立ち続けようとする役どころを、屹然とした美しい表情で演じました。
迷いのない視線が印象的で、今作でも以前は奴隷だったエリザベスにタッドが無邪気に「白人に殴られたことある?」と尋ねるのを、平然と「暖炉用のスコップでね」とタッドに答えながらまっすぐリンカーンの方へ向き直るところなんて、苦難の道を乗り越えて来た女性の強さを表してジェニー ブレ役の時と変わらぬ凛とした表情が美しい。竹村淑子さんの声が聞こえてきそう。
オスカー受賞のダニエル デイ ルイスの成り切りぶりは多分見事なんでしょう。
誰もが納得するように創り上げたことは充分解っていながらも、特に登場場面は教科書などで見たリンカーン大統領そのものの画になっていて、思わず驚愕。仄暗くはっきり表情を見せなかったのも効果的。
輝かしい歴史的修正案可決は自然な時の流れなどというものではなく、その裏には情熱や人心を掴む言葉とともにロビイストを駆使した知略があったわけですね。
偉人を偉人らしく、恐妻家で子供に甘いという弱い部分も汚すことなく、讃えられるに相応しい人間として演じているようです。
画面は銀色に鈍く烟ってかの時代を描写し続けるので、最後の議事堂の純白の外壁とその上の晴天の青が眩く強調されるという、これもまた巧い手法。
2票差ながらも遂に修正法案が通過したことを知らせる鐘の音の中、リンカーンが窓辺に立って薄絹のカーテンの向こうで子供(未来)を微笑んで見つめる場面は、とても美しかったです。