2013年 08月 29日
豊田利晃監督作 『モンスターズクラブ』 wowow放映
雪が降り積もった原野に囲まれた山奥に一人で暮らし、黙々と爆弾を作ってはさまざまな場所に送りつけている垣内良一(瑛太)。日本の社会システムを粉砕しようともくろむ彼は、そのために作ってきた爆弾の最後の一個を総理大臣に送りつけようと決意する。だが、その夜に自殺したはずの兄(窪塚洋介)が彼の前に現れる。
12年公開作品。72分という中編。
ユナ・ボマー事件にインスパイアされた物語ですが、良一が籠っている雪山の風景がモンタナの山の中ではなくて、なぜかロシアの雪景色を思わせました。
ヴェルディのオテロが古いレコードの割れた音で流れていたのも厭世観が表れていました。
企業に手製の爆弾を「フリーダムクラブ」ならぬ「モンスターズクラブ」と刻んで送り続けるのは、新左翼的で現代社会批判なのですが、なぜそこに至ったかがはっきり見えてこない、というか見せない。復讐なのか、たんなる思想犯なのか。
小屋に現れる「バケモノ」とか死んだ兄たちから挑発的に現行為を批判されるのは、この良一自身の中の迷いを表しているのかもしれません。
自殺した兄のユキからは、早くこっちへ来いと生きている無意味さを突き付けられるのですが、「まだそっちには行けないよ」と、生にこだわりを見せ、虚空に叫び続け世界に傷痕をつけ存在を残そうとする。
最後に小屋に警官が訪ねて来たところを逃げ切って電車に乗って都会まで出て来たように描かれていますが、妹に電話した後、渋谷のスクランブル交差点の雑踏の中で誰の耳にも届かない声で叫んだところはスローモーションで無音なので、良一の幻想なのかもしれませんね。
兄・ユキ役の窪塚洋介さんは相変わらず不思議な存在感。
なんだろう、この人のセリフはこの人自身の思考のように聞こちゃう。
乾電池ピラミッドの場面なんて特に。
納得してないんだろうと推察できるセリフは、それ故に棒読みになるのかしら。
でもまたそこに現れる不敵さがユニークな魅力なんですけど。
美しく優しい雪景色。
ミュージシャンのkenken氏、パフォーマーのピュ~ぴる(女性!?)と、特異なキャラクターが揃ったのもこの作品の魅力。
ピュ~ぴるさんは性同一障害のアーティストで(デザイナーかも)“産まれ”は男性ですが現在は女性として生活しています。
(戸籍も女性に変更して男性とご結婚・・・したはず)
数年前にドキュメンタリー映画が公開されましたが、私は何故か観にいけなかったけど(忙しい時期と重なったんだと思う)予告はまだ覚えています。
実は、あまり好きではない作品だったのですが読んでいたら再見したい気分になってきました。『ワールド・ウォーZ』もゾンビ映画なのでパスしたんですけどグロくないなら観ようかな。
パフォーマーではなく芸術家でしたね。
かなりアヴァンギャルドでしたが、奇を衒ったものではなく、海外での評価にも納得できる造形でした。
『WW・Z』は、ゾンビがアップになって長々映るのは最後だけでしたし、『バイオハザード』みたいになっていませんでした。
比喩としても、今さらなぜゾンビなのかちょっと疑問ですね。