2014年 09月 04日
内田吐夢監督作 『飢餓海峡』 NHKBSプレミアム放映
今まで全編通して見るチャンスがありませんでした。
「洞爺丸沈没事故」と「岩内大火」に着想を得た水上氏の原作に興味もありましたが、その根底にある部落問題と貧困という重いテーマの受け入れ態勢が(笑)整うことなく未読。
遭難した船の乗船者数より「遺体が2体多い」という謎はやはり衝撃的。
ミステリとして上質。想像を掻き立てます。
映画は懸念したほどに陰鬱さや鮮烈な表現もなく、全体に洗練された印象でした。
犬飼(樽見)役三國氏と、八重役の左幸子氏は名演。
三國氏の大きな目による恐怖と昏迷の表現、必死の逃亡者から厚志家の紳士への変貌まで、寸分の隙もなく創り上げられ終始圧倒されます。
左幸子さんは体育学校(大学)出身でらっしゃるせいか、どんなに薄幸のひとを演じても隠せない、健康的な明るさがあります。
悲運を託った女の情念にもいじらしさが感じられました。
上京したものの犬飼を追う警察の影から逃れ、結局娼妓でしか生きるすべがなく履物を揃える態勢から蹲って泣くその肩は、当時の女性の辛苦を表現していました。
犬飼にしたら、脅迫されるという危惧もあるのに、思い出してくれと縋りつくなんて・・・なんと哀れ。
後半、健さん登場。
当時主演作も出始めた30代前半の頃で、いかにもスター登場という感じ。
エリート刑事の風貌で、貧困に喘いだ世代と対照的に凛として颯爽。
最後の船上では、犬飼になぜ捕縛紐が無かったのか疑問でしたが、
真に贖わせるための温情のようにも見えました。
それにしてもタイトルが秀逸。
希望と絶望の国境であるようです。
興味のある名作をレンタルするという手もあるけれど。
偶然の出会いのように見るのが好きなのかもしれません。