2015年 02月 20日
ウッディ・アレン監督作 『ブルージャスミン』 wowow放映
C・ブランシェットが主演女優賞を総なめにした話題作とはいえ、堕ちてゆく女性の悲劇なんてと避けてしまって公開当時も見ませんでした。
W・アレン版「欲望という名の電車」ですが、そのハイソサエティへのシニックな視線が軽妙な仕上がり。
懸念したほど陰鬱な後味も残さなかったのはさすがといったところです。
アレン好みのジャズのBGMによるのかな?
ジャスミンの転落は自身の通報によるものであったと終盤に明かされるのは、彼女の不安定さの伏線になって巧妙。
すっかり裕福な生活に慣れきってしまったとはいえ、あまりにも諦めが悪いのが彼女の悲劇でもあるのですが、自分から壊していたとは。
嫉妬に狂っての行動に出る前にいくらでも身を守る方法は残されていたのに。
プライドが邪魔をしながらもなんとか再生への道を歩み始めたのに、不運に託つばかり。
歯科医院の受付なんていいじゃない?しょーもない男のわりにチリの友人ったらいい職場紹介してくれたじゃない?しかも歯科医に好かれて裕福な生活復活じゃない?と思ったら、元々眼中にない。
望み通りの男性との出会いに婚約指輪買うところまで漕ぎ着けたのに、店前で妹の元夫に遭遇して全部バラされちゃうし。
でもわたくし的には、会うなりシャネルのベルトだねエルメスのバーキンだねなんて言うオトコはどうなんでしょ品定めしたみたいじゃありません?って思いましたけどね。
どこまでもツイてない。
でもドワイトが出馬したら過去なんてマスコミにすぐバラされるだろうから、そうなれば取り返しつかなくなるし。傷は小さくて済んだのかも。
ハルとの思い出の曲だと言う「ブル-ジャスミン」も、「歌詞は忘れたけど」と、実はワザと聞かないふりをしているかのようなところが、この女性の虚飾を表しているようでした。
歯科医だけじゃなく、出てくる男が皆どこか危うい。
浮気性のハルを始め、ジンジャーの浮気相手のアル、激昂したかと思えば仕事先に現れ泣き落としにかかるヤクザな風貌のチリ、ドワイトのような男が嘘を身抜けないかぁ・・・だから話しも聞かず捨てちゃうのか。
ピーター・サースガードが演じると戻って来てくれそうにないね。
里子として共に育った妹ジンジャーは、浮気相手の男に妻がいたり(聞いてないって、最初に言ってなかった?)、よりを戻したチリともきっとまた一悶着起こすに違いない。
しかし息子ふたりを抱えたシングルマザーとして堅実に働いているし。
アブク銭を奪われ離婚にまで至っていた原因の姉にも手を差し伸べる憐れみは残っている。
こんなものといえば言えなくもない。
C・ブランシェットのヒステリックな演技ばかり注目されますが、通い始めたPC教室での「はあ!?ぜんっぜんわっかんない!」な表情や、診療の予約日時に二転三転する患者への応対の場面は、お見事な巧さでした。
冒頭ではファーストクラスで隣席に乗りあわせた女性に惨めさを誤魔化すため勝手に喋り続け、
ラストではバス停のベンチで茫然と呟き始め、居合わせた女性に怪訝な顔で立ち去られる。
錯乱と表現されそうですが、妹は血縁ではないうえに負い目があるという決定的な溝があるし、息子も前妻の子であり父を追い詰めたと恨まれているしと、真に寄り添える相手がいないから、虚空へ向けて吐き出すしかなかったということではないのかな。
温かくも冷たくもない不安な黄色が全編に満ちた映像も印象的。
「W座」での薫堂さんのアフタートーク。
お父様が50数万もする健康器具を買いそうになるのを諌めた薫堂さん。
「噂によるとおまえは高級時計をしているそうだが、私の腕時計は1万5千円でも正確に動いている」と、価値観論で一蹴されたお話しは傑作でした。