2015年 04月 22日
A・G・イニャリトゥ監督作『バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』
いかにもアカデミー会員の心を掴み易い内幕ものですが、テーマがストレート過ぎて反って受賞はしないんじゃないかと思いましたが、その斬新な技巧で‘歴史に残る’作品と称えられたのでしょう。
低迷する俳優リーガンが起死回生に文芸作に挑戦するも、現場は混乱し追い詰められるさまが延々続くわけですが、冒頭から既にリーガンの精神状態は危うい。
いつ崩壊するか、という状態。
路上で男が『マクベス』の「人生は歩きまわる影法師。出場が終われば~」をがなって、尚更にリーガンには刺さる。これはやりすぎな場面に見えましたが、言い終えた後に怪我で降板した俳優と同じ「やりすぎか?演技の幅を見せたかったんだが?」と声をかけるので、これはリーガンの幻覚と分かります。
バードマンの幻覚も既に振り払えないところまで来て、しかもそれが支えにもなってしまっている。
ワンカット長回し風の画が、リーガンの切羽詰まった状況の密度を上げて、追い詰められていく過程がより迫ってきました。
ヒーローもので人気が出た後のイメージ払拭が難しいのは、『スーパーマン』なんてその最たる映画でしたが。最近はそんなSF作品があまりに多いせいか危惧されることもなく人気も実力もある俳優さんが出演していますしね。クリスチャン・ベイルしかり。E・ノートンしかり。
イメージが固定されるか脱却できるかは結局その俳優の実力次第。
しかしこのリーガンの場合、その実力自体が危うい。それを本人が感じてしまっている。
レイモンド・カーヴァー作品への思い入れも一笑に付されるんですが、出し方が悪いのね。
褒められたってだけでは、あまりに弱い。出発点がすでに弱い。
映画をクビになったらしい、演技派を自称するプライドばかり高いマイク(エドワード・ノートン)にしても、低迷している俳優のワンマン舞台を見下していて、主導権奪おうとしている。
リーガンの娘は女優でないからなのか、落ち着いた大人として接する事が出来るばかりか、自分の弱みまで打ち明けられる、というのもこの男の苦悩の深さを表していました。
エドワード・ノートンがもうね、やんなっちゃうほど巧い。
これでもかとヒーロー映画に出演してる俳優の実名を挙げているところはコメディとして息抜きにはなりましたが、ロバート・ダウニーJrのインタビュー映像やら、「ジェレミー・レナーは?」「それ誰だ」 なんて大丈夫かしらとヒヤヒヤ。
落ち着くために(あと2分で出番なのに!)外でタバコ吸ってた時にドアが閉まってガウン挟まって仕方なく脱いで下着姿で正面入り口へ回るという、忌々しげな表情がなければただのコントになる場面。
なんだか、劇場外から芝居始めさせる演出家なんて日本に居そうですね。
劇場の外へ飛び出すだけじゃなく。いつかやりそう。
イニャリトゥ監督作らしい父親と娘サムとの確執も、徐々に距離が縮まっていく過程がよかったです。
トイレットペーパーの話なんてね。
「いまので人類絶滅」とか言われちゃって「あ、ごめん」なんて、いかにもおとーさんな感じで微笑ましい。
リーガンが、心が安らいでいる表情や娘と打ち解けて自然に会話できているところは横顔や斜め下からのショットだったのもよかったです。
目の強さを正面から捉えずぼかしていて。
リーガンの現実と妄想・幻視との境を表さない表現は、舞台上でリーガンが自殺場面をリアルに決行してしまった後にも続く。
このラストは凄かった。
先に告白した自殺未遂を思い出させる幻想的なショット。
娘サムがライラックの花束を横たわるリーガンの胸に置く。
肩を落としたバードマンに別れを告げる。
窓の外を飛ぶ鳥たちを見上げて安らかに頬笑む。
病室に戻った娘が、消えた父を探して開けられたままの窓から下を見る。そこに変わり果てた父の姿を発見した表情になると見せかけて、なんと空を見上げてそこに見えたものに驚きながらも微笑む・・・。
ストレートに描き続けて最後にこの演出には驚きました。
父が苦悩から開放されたのを娘だけが理解できたという救いのある結末。
こうゆうハッピーエンディングもあるんだ。
主演男優賞のオスカーは逃したけれど、この役で獲得しては身を削って獲ったようになってしまいそう。
ビル・マーレイだったかが言った、数年経てば誰がオスカーを獲ったかなんて忘れられてしまうという言葉はあながち言いすぎではないと思うのです。
作品賞受賞作に主演したことのほうが、半永久的にひとびとに記憶されるのだから。
で、あれは受賞スピーチ用メモではないと思いますですよ。
そんなもの発表時に出すひとなんていませんでしょ。役柄と被せ過ぎ。
映画前にフードコートにある『コッコ屋』さんでオムライス。和風にしてみました。
さすが『一丁目』系だけあって、お出汁の効いたタレが美味しかったです。
ライスの乗ったお皿に、フライパンの柄をトントンとノックしてポーンと乗せる業に思わず、「すげっ」
さてさてようやく6月に『トゥモローランド』ですね。
ジョージ・クルーニーのいろいろ事情のありそうな「トゥモローランド」の言い方がちょっと可笑しい。