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原田眞人監督作 『日本のいちばん長い日』

原田眞人監督作 『日本のいちばん長い日』_d0109373_17441559.jpg先に岡本喜八版を全編通して見てから見たかったのですが、NHKBSを見逃してしまいました。
部分的にしか見ていなくて、阿南が自決するのを延々映した場面は特に印象に残っています。

公開から10日も経っていたのですが、年配の方を中心にかなりの入りでした。
冒頭からひじょうにテンポよく語られ、「いちばん長い日」を中心に息詰まる展開。
無駄なセリフも描写もなく、群像劇と激動の時局を端的明瞭に描いていました。
特徴の聞き取れないセリフはほぼ無し。

鈴木貫太郎首相は、岡本喜八版で笠智衆氏が演じたほど好々爺の印象です。
しかし山崎努氏が演じるとなると、これが強かな人物に見えてしまいます。
耳が遠いのも都合が悪くなるとわざと聞こえないふりしてるんじゃないかと疑ってしまうような。
三船敏郎氏が強烈なインパクトで演じた漢・阿南は、より複雑な心境と達観を繊細に表してこちらは知将・阿南の印象。
次男の戦死の報を察したのかなかなか電話をしなかったのは、決意の後ではもう妻の声を聞きたくなかったのかもしれませんが、ようやく電話した時には長女が母親に電話してお話し中とは・・・
喜美子ー!早く電話切りなさーい!な観客。
切腹場面は岡本版と同じに長々とやる意味はありませんが、逆に決行までがちょっと冗長に感じました。
しかも「介錯は?」にはもっと緊迫感が欲しかった。
部屋の外での一礼も立ったままでなぜ正座ではないんでしょう。
随分と冷静。否、冷静を超えて冷淡。もっと厳粛に捉えるべきでは。
答えた阿南の声も、もっと苦悶の中から絞り出すようであるべきではないでしょうか。
床にリアルな描写をして見せたのに反してちょっと苦しさ堪えすぎのような・・・
関羽だってさすがに呻き声混じりになると思われ。

本木さんの天皇陛下は、その苦悩と祈りの佇まいがとても良かったと思いました。
良くも悪くも生々しくならない本木さんらしい演技。声も似せ過ぎず。
食糧難に何度目かのおかゆにも、‘料理番’の心づくしを察する優しさ。
ポツダム宣言受諾拒否を上奏するに生物学を例えに使う東條に向って、より深い知識と広い歴史解釈と帝王学で論破する毅然とした態度に、東条への不信感が表されて見事でした。
真情が丁寧に描かれ、御聖断の言葉には心打たれるものがありました。
玉音放送を録音する部屋へ向う時の歩調が早足なのは独自演出なのでしょうか。
別の映画ではもっと静々と進む場面ばかりが印象に残っていますが、陛下の決意の確固たるものを表しているようでした。
良子皇后役が池坊由紀氏と後になって知りました。粋な配役。

で、私の年齢的には侍従長として記憶に残る、入江相政氏も登場していたんですね。
御文庫へ行くのではなく戻りたいと言えば反乱将校たちは通してくれるのではと一計を案じた侍従に、「言い方ですか?」と訝しがり、果たして許可されると「言い方でしたね」と返したのがそうでしょうか。
あの飄々とされたお人柄が偲ばれるエピソードでしたので。
ベテラン侍従たちは落ち着きを失わずどこか鷹揚な構えである様が微笑ましくみえました。
録音テープの保管に困った政府側から依頼されるもすんなり受け入れたり、
騒然とする宮城内で録音テープは無事かと駆けつけた侍従に、植本潤さんたち他の侍従たちがケロリと、「ありますよ?」は、ちょっと笑えます。

田中司令官役で木場勝己さん。「切腹は痛てえんだろうなぁ」なんてわざと軟なところみせておいての畑中への一括はさすがの迫力。
畑中を演じる松阪さんも血気に逸る若さを大きな眼に表し好演。
電源を切られ通じていないマイクで決意書を読み上げる表情にも自棄というのではなく、悲壮感が感じられました。
それをガラス窓越しに茫然と見つめるNHK職員、という画も印象的でした。

戦記物に出るのは珍しい堤真一さんも相変わらず鮮やかな台詞力。
言葉が残るんですよね。映像上に。
緩急のつけかたも相変わらず巧み。銃声にベッドから飛び起きて舞い散った書類踏んで滑って転ぶとこすっごく痛そう。


何度も中座するおじいちゃんいるし、トイレなのか出口を間違えて右往左往する女性いるし、携帯は鳴るし、出るし、ありゃりゃな鑑賞環境でしたが、怒涛の展開にのめり込んで見ることが出来ました。
総じてベストなキャスティングで、見応えのある作品でした。
ただ、真夏の暑さがまったく感じられませんでした。
じりじりと照りつける陽射しに流れる汗、熱帯夜だったのではと想像させる汗が滲んだ軍服なんて、将校たちの焦りや苛立ちを演出するに効果的だと思うのですが。
みなさん涼しげ。


映画
Commented by k-mia-f at 2015-08-25 21:33
こんばんは^^
“汗”になるほどとポンッ
ギラギラしていないわけでないのに熱を感じないのは家族のシーンが多いからかなと思ってました。

ご存知かもしれませんが、本木さんの天皇陛下ですが、原田監督は「物真似でなく“本木天皇”を演じてほしい」と仰ったそうです。原田監督はソクーロフ監督『太陽』のイッセー尾形さんの形態模写陛下に不満を感じていたということなので成程ねと思いました。(私は”海外作品ならこれもあり”で割と好きなんですが・・・配役だけなく演出がね日本の製作では絶対無理だと思います)
本木さんが樹木さんに役を受けるべきか相談したところ「あなたの持つ生活感がみえにくく、何にでも器用に変化できるとも言えない幅の狭い感じをうまく利用すれば、どこか浮世離れした特別な人物が醸し出すものを自然に表現できるのでは」(キネマ旬報丸写し)とういうこと言われたそうです。イッセー尾形さんの天皇陛下は浮世離れとは違ったな。

**********

遅くなりましたが、お誕生日おめでとうございます。
今年のアレンジメントも素敵でした^^


Commented by august22moon at 2015-08-26 22:33
miaさん、こんばんは!
ありがとうございます。
珍しい花材のあるお店なのでアレンジメントは楽しい出来上がりになります。

反乱将校たち、顔はてらてらしてましたが、あれじゃちょっと足りない感じ。
部分的にしか見てないわりに印象深い岡本版を意識し過ぎかなぁとも思ったんですが・・・。

キネ旬読んでなかったので原田監督の発言は知りませんでした。
「太陽」も見てないので、どんな天皇像か分かりませんが、
あれだけ正面から描くのですから、ただの形態模写では苦悩までは伝わらないですものね。
でも、国民誰もが馴染みある部分も表現してご本人らしく演じてくれないと、誰?ってことになっちゃうし。
やんごとなき方を演じるのに伝統芸能の役者さんに頼りがちですが、本木さんのように生来の品がある俳優さんは貴重ですね。
英国王室の人々を演じるようなことより遥かに難しいことだったと思います。

「幅の狭い感じ」とは巧く言いましたね、お義母さま。(笑)
by august22moon | 2015-08-20 23:20 | 映画 | Comments(2)

出会った本、映画の感想。日々のこと。


by august22
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