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リテーシュ・バトラ監督作 『めぐり逢わせのお弁当』 wowow放映

リテーシュ・バトラ監督作 『めぐり逢わせのお弁当』 wowow放映_d0109373_111173.jpgハーバードの教授が調査したところ誤配送は600万分の1。
99.99%ほぼ確実に届いているというダッパーワーラーの奇跡的誤配送が起こしたドラマ。
ムンバイ名物のこのシステムを20万人近い人が利用しているとか。
ドキュメンタリー番組で見ましたが、ひとりでものすごい数のダッバーを運んでいる光景が壮観。
間違いよりも落とさないのか心配。カレーも入ってるのに。

『ジュラシックワールド』では無謀が祟ってあっと言う間に墜落死しちゃったイルファーン・カーンが、主人公サージャン役。
1ヶ月後には早期退職する男なんですが、偏屈で近所の子供にまで無愛想。
早目に採用された後任の青年シャイクがまたお調子者でやたら馴れ馴れしいので、すぐに仕事を引き継ごうとしなかったり。
「噂では猫を蹴飛ばしてバスに引き殺させたそうですね」と問う無神経さに、平然としかしピシャリと「猫じゃない、酔っ払いの男だ。君も気をつけたまえ」なんて返す。
妻を亡くして独りの侘び住まいで、向いの家族の食卓の団欒をつい眺めてしまう。
老いも迫って、満員電車の車内で席を譲られたり、祖父と同じ体臭がしてきたことに戸惑う。
こんな男の哀愁がとても巧く表されていました。
特に、初めて誤配送のお弁当箱を開けた時の表情がよかった。
お弁当屋さんの、つまり既製品の味気ない料理とは明らかに違うことに一目見て気付くんですね。
香り嗅いでみたりして。
ほんとうにいつもの弁当屋かなと訝しがりつつ、今月末で退職するから契約打ち切りを告げに行った時も、ちょっと探るように「今日のは美味しかった」と言ってみるようすもよかったです。
で、お弁当屋さんの男も、褒められるなんて珍しかったようで、驚いたりして。
ランチバッグには分類記号が付けられているようですが、名札を付けておけば今回のようなドラマも起こらないでしょうにね。

シャイクが、当然のように相席してくるのが面白い。
バナナしか持ってこないから仕方なくお弁当分けるんですが、「ほんとにお弁当屋さんの?」とか、手紙はすかさず見つけるし、そのうちお裾分けが当然のようにお弁当覗くし。

夫の愛情をなんとか取り戻そうと、心を込めてお弁当を作る妻のイラ。
きれいに完食してくれて喜ぶなんて、健気だわ。
誤配送に気付いてもワーラーのおじさんに結局言わないところがミソ。
受け止めてくれる人がいることの嬉しさのほうが勝ってしまうんですね。
肝心の夫からは同じおかずばっかりと詰られても黙っているようになる。
上階の部屋の「おばさん」と窓越しに大声でコミュニケーションをとってるのもとても楽しい。
誤配送されたみたいと話せば、「じゃ、お礼状入れとけば」。
いや、だんなさんに食べてもらわないと意味がないんだから配送先間違ってると言え、でしょフツー
でもおかげでふたりの関係が発展することになったのですから、おばさんはキューピッドね。
匂いだけで足りないスパイスを教えたり、食材を窓からカゴに入れて降ろしたり。
「これ入れてみたら?」とスパイス入りのカゴが降りてきたのを躊躇っていると、ほらほらとばかりにチョンチョンと振ったり。

サージャにしても、久し振りの家庭の味に素直に喜んでしまう。
表情も少しずつ和らいで、後任の青年とも親しく話せるようになる。
自分の為に作ってくれる美味しい食事があるということが、味気ない日常に彩りを与えたんですね。
間違って配達されたようだけど食べてくれてありがとうとお礼のメモをチャパティの下に発見して、最初は彼らしく「今日のは塩辛かった」なんて素っ気ないんですが、それがやがて心を開いた文通にまでなるのがね、とてもいいです。
食べ始めようとしたところを上司に呼び出されても、行くのを躊躇うほど残念がったり。
あの後、口元拭きながら部屋に入ってきたので、大急ぎで食べたのかしら。
若いシャイクからはいまどき手紙かと珍しがられるんですが、サージャにしたら手書き文字の温か味を知っている世代。
安易に接近せず、距離を保っているのも大人らしい関係。

閉塞感に苛まれ、‘ここではないどこか’を切望し始めるふたり。
出会うべくして出会ったふたりだけれど、一旦は躊躇して、さらにラストではすれ違ってしまう。
運命の出会いを確信したのに、さらに親しくなるためにメアドを教えるわけでもない。
イラは持ってないのかもしれないけど。
住所も家電も告げない、直情的に突っ走らないこの距離のとりかたに、相手への配慮がありました。
そんなに「単純に」運命の出会いは成就しないもの。
そんなに「単純に」希望の大地へ到達はしないもの。
なのかもしれない。

最後、踊らないよね。まさかこのストーリーでイルファーンとニムラト・カウル前列にして、どんな曲でも振付が合ってしまうあのダンスなんて踊らないよね。台無しになるじゃないのと心配しましたが、無事踊らずに終わって、なによりなにより。

by august22moon | 2015-09-13 22:00 | 映画 | Comments(0)

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