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ジャン=マイク・ヴァレ監督作 『わたしに逢うまでの1600キロ』

ジャン=マイク・ヴァレ監督作 『わたしに逢うまでの1600キロ』_d0109373_1454959.jpgようやく地元公開が始まったのにあっというまに上映最終日となったので行ってきました。
上映前の予告編やCMにいちいち反応しお喋りしてた同列席のカップルがいまして。本編では静かでしたが終わり近くになって男性の方が中座し、戻って来てエンドロール中ずっと笑い声とお喋りで余韻台無しですわ、もーもー。

リース・ウィザースプーンの主演映画をスクリーンで見るの初めてでした。
オスカーにもノミネートされたウィザースプーンが制作も兼ねた意欲作。

レイティングが15+なので、荒野でなにか残酷描写があるのかしらと警戒して行きましたが、母親を亡くしたショックから立ち直れないまま結婚生活もうまくいかず(優しいひとだったのに)自暴自棄になってどん底まで落ちてしまった女性を描いている部分だったんですね。
でも冒頭から、痛い痛いそれは痛いー!なR15にも匹敵する衝撃的場面で。
右足親指の爪がなんか疼いてくる気がしちゃったですよ。
シューズ片方落としちゃって、自棄になって残った片方も投げちゃう。
あーなんてことをー!せめて残った方は履いてなきゃー!
(私なら取りに戻る。何回でも登り直してやるー)
全行程、こんな危なっかしいのかしらと心配になりました。

母親の病が医者の宣告よりも急激に進行していき、最期は看とることもできないなんて。
病院は急変の連絡もしてくれず、いつもどおり見舞に来たらもう移植処置までされてたなんて。
しかもなんだあの冷やし方は!
ひとり寂しく逝かせてしまったと自分を責めてしまうのは当然。
明るい楽天的な母親だったからこそ、病魔に蝕まれてゆくのは辛かったでしょうね。

PCTって今作で初めて知りました。
宿泊所や街中の指定店で追加荷物を受け取ったり、給水のタンク(作品中では切れてたけど)があったりとシステムは完備されていますが、なんといっても荒野(Wild)。
岩山もあれば砂漠もある。場所によっては雪もある。急流もある。
配分間違えて水や食糧が尽きてしまうピンチはあったけれど。シェリルさん、よくぞ滑落も遭難もせず。
『In To The Wild』のように無謀な旅ではないのですが、なんといっても女性の一人旅。
途中、案の定な危ない男たちと遭遇しますが、よくぞ無事で。
無駄な荷物が多すぎたり(モンスターとからかわれた時に小振りなバックパックの女性が背後を通り過ぎるのが巧い)、テント立てるのに四苦八苦したり、燃料の種類を間違えたり、靴のサイズ間違えたり落としたりは、初心者ならではですが、一回T字路で迷うだけでルートを見失わず完全踏破したのは凄い。
靴を失えば急ごしらえで乗り切っちゃうほど逞しくなってゆく。
こうゆう体験は大きな財産になるんでしょうね。
ヒッチハイクの相手も幸運にもいいひとばかり。このトレッキングが根付いているんでしょうけれど。

道中、辛い過去がことあるごとに思い出されて、シェリルはそれらともう一度向き合っていくわけですね。
フラッシュバックする切っ掛けが絶妙。連想は思わぬところからやってくる。
自分も含め周囲のひとを傷つけた過去は消せない。生まれ変わることはできない。
雄大で厳しい大自然に相対することで、穢れが浄化されていくようです。
「2分おきに後悔」しながらも3ヶ月間歩くことを止めなかったのは、その先にしかない景色を見るためか。
随所に場面に合った曲が流れます。
(「Let 'em in」が流れたのはちょっと嬉しかった。懐かしきWings)
母親がくちずさんでいた思い出の曲、「コンドルは飛んでゆく」はトレイルコースの大自然にまさにぴったり。(叔母がこの曲好きだったんですよね。洋楽聴く機会なんてなかったでしょうに)
P・サイモンの歌詞はおしなべて哲学的な暗喩。それがことごとくシェリルの心情と重なります。
「釘よりもハンマーに」と心を奮い立たせたり。

森の中で、おばあちゃんと一緒のやけに畏まった言葉遣いのできる男の子が、無垢な天使の声で「Red River Valley」を歌ってくれる。
長く辛い道程を脱落せず歩ききったご褒美のよう。
ふたりと別れた後で、シェリルは初めて気力が尽き果てたように頽れて涙し「I miss you」と天に呟くのですが、これは誰のことだったのか。
あの日の自分になのか。ママになのか。きちんと愛を返すことができる誰かになのか。
ちらっと「God」と聞こえた気もしました。

S&Gふたりの声もまた天使のよう。
♪ Away, I'd rather sail away like a swan that's here and gone.
A man gets tied to the ground,he gives the earth its saddest sound.

ジャン=マイク・ヴァレ監督作 『わたしに逢うまでの1600キロ』_d0109373_1932716.jpg




映画
by august22moon | 2015-10-31 23:42 | 映画 | Comments(0)

出会った本、映画の感想。日々のこと。


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