『坊っちゃん』と『赤めだか』

3日に放送された『坊っちゃん』をようやく全編見ました。
映像化『坊っちゃん』に傑作なしと思っているのですが、にのさんが演じるのならば見なくてはなりません。
一昔前の女性アイドルに於ける「伊豆の踊子」の薫とか「潮騒」の初江のように、その時代毎に演じるに相応しい俳優さんやアイドルが演じてきています。
お正月SPということで、道後温泉はもちろん、往時を偲ばせる場所でのロケがなされて、力作風。
紅葉映ってたし生徒が標準語だとか文字の書き方とか尺問題ゆえの設定変更など細々疑問もありました。
せっかく見事な風景の前で撮っても、肝心なところに行き届いていないとチャラにしてしまう。
予算や時間は言い訳にならない。
SPドラマってそんなもんですかね。

山嵐・野だ・うらなりは流石に文句なく巧かったけれど、赤いシャツはなんなく着こなして嫌味な感じ皆無。
二宮さんも、「華奢で小作り」は原作にぴったりですが、「無鉄砲」な悪戯坊主で長じても尖って喧嘩っ早いという風貌ではない。
しかしその特徴が、清との場面で大いに活きました。
この清の存在が私には興味がありまして。生母説も同感です。実は坊っちゃんもうすうす気づいていて、ぶっきらぼうに「だから婆さんである」なんて言ってても独り立ちしたら一緒に住みたがるのを承諾したんじゃないかと。遠く松山へ呼び寄せるなんてことまで考えたのではないかと。
なにより、下女とはいえ元々は名のある家の出である者が、同じ墓に入れてと懇願したのを受け入れたことからしてこれはもう血の繋がりを示唆しているんじゃないかしら。
文章には表されなかったけれど、もしかしたら坊っちゃんは清を母親を見る目でみつめることがあったかもしれない。
その複雑な関係性が、二宮さんの巧さと、宮本信子さんの品のある抑えた芝居で表せていたと感じました。
旅立つ日の食卓。松山から帰って来た時。
だから設定も変えて、甥のところに住んでいるのを同居したままにさせたんじゃないかと。
母と名乗れない不憫さ、そのまま気付かぬふりをしたほうがふたりの母のためと思いやる心。
最後の「だから清の墓は」の「だから」に込められた万感。溢れるほどの。
と勝手に想像していたぞなもし。

まったく頂けないのが「夏目金之助」を出しちゃったところ。なんでこう要らんおふざけをするかね。
折角の画を崩してまで、時の人というだけで芝居の出来ない芸人さんを出す必要があったのかしら。
太宰作品でもないのに。原稿まで出して。
冒頭と最後に出して入れ子にするならともかく、最後に現代に戻って読書している女性を登場させるのも疑問。
おかげで散漫な印象で終わってしまった。
マドンナの家に赤シャツが求婚に来る場面だけは、別作品かと見紛うばかりに味わい深い映像になりました。ひとえに小林薫さんの存在感のなせる技。
お顔も漱石のようで、小林さんの漱石で執筆しているところを出してもよかったのに。

★★★★★★★★★★★

ちっとも放映日が発表されず、CGかVFXでもあるのか?なんて冗談言ってましたが、ようやく年末28日放映の『赤めだか』。
実は談志師が苦手だったのです。チャンネル替えるほどでしたので、どんな師匠だったかいかに慕われたかに興味は無かったのですけどね。こちらもやっぱりにのさん演じてるので見ました。

再現ドラマにはならないよう新鮮な編集で、アドリブも満載で楽しかったです。
談志師匠にビートたけしさんという配役は、破天荒の裏に隠された情が深く勘の鋭さを表すのに最適だったのではないでしょうか。大物感も出て。
交流のあったご本人も師匠に敬意を払った演技であったと感じました。
強引に弟子入り志願しておきながらの「タテカワですか?タチカワですか?」に呆れて「タチカワだよっ」と返した後に、カットの合図やスタッフの笑い声まで入れたのに先ず、創り手の姿勢が示されました。
鬼籍の師匠まで面白がってもらおう再現ドラマでは鼻で笑われるだけだという魂胆があったみたい。
決しておふざけではなく、遊び心があった。

親交のあった人たちも出てきましたが、それでなくても声がそっくりな勘九郎さんが、喋り方まで勘三郎さんを真似るとそこに居るようで感慨深かったです。
円楽さんが先代を演じるのも、羊羹丸齧りしながら1シーンで談志さんとの関係を表したというのが面白い。

お弟子四人がまるで兄弟。志の輔さんは頼りがいある叔父さんみたい。
「わたしは蕎麦じゃありませーん」っていかにも志の輔さん呟きそう。
(合間にご本人のCM入って大笑い)
初対面の場面では、北村さん演じる兄弟子の談々さんが、だんしゅん?はる?と頭の中で文字にしているようすが巧い。
隣りで自分よりいい前座名に不満な関西さんがぶつぶつ言ってるのも可笑しい。
たくさんの用事を言いつけられて誰ひとりそれをちゃんと憶えてないって場面。
師匠はちゃんと憶えてるからとそれぞれの記憶を繋ぎ合わせてる中、関西役の宮川大輔さん、「なんかスリッパースリッパーゆうてたで」とやって、にのさん噴き出しちゃったり。(スリッパの裏を拭いとけだよぉ)
たけしさんのアドリブか、赤めだか(金魚)の餌の残りを関西に「食っていいぞ」と渡す。戸惑ってる関西ら4人の前にたけし氏戻ってきて「醤油かけても美味いぞ」に、なんと志らく役の濱田岳くん「醤油持ってきましょうか」。にのさん笑うのみ。
このやりとりで、役者4人の違いがはっきり出た興味深い場面でした。

語尾を飲んじゃう語り方とか、立ち居振る舞いが落語家らしいそれへと変っていくのがさすがに巧かった。
自転車に積んだシュウマイの箱をひっくり返すとは思わずびっくり。何回オシャカにすんねーん。
部屋の外にいる談春へ向けて「嫉妬とはなにか」を説く場面は印象的。
自分に言ってると判ってちょっとスネた表情で聞いてるにのさんも絶品。
分かっているんだでも湧き上がってくるのを抑えられないんだ。
「嫉妬しているほうが楽だからな」。

モノローグではストップモーションにしたり、フラッシュバックを入れたりと、カット割りテンポもよくて、たいへん面白かったです。
当時のヒット曲のBGMも場面に合っていました。
真打昇進披露の最後に客席に背を向けて「おまえら、売れろよ」はちょっと感動しちゃいますが、さらに「Daydream Believer 」を被せられて心に沁みました。

流石、「半沢」「下町ロケット」のスタッフ集結させただけのことはある、残るドラマでした。
番宣で二宮さんが、「見ないひとだけが損をすればいい」と風変りだけどTVの醍醐味を突いたのは、まるで立川流。

by august22moon | 2016-01-12 22:21 | テレビ | Comments(2)
Commented by cinnamonspice at 2016-01-15 12:42
去年、「坊ちゃん」を読んだところだったので、「坊ちゃん」のスペシャルドラマの話を知って見てみたいなと思っていました。
配役はなかなかおもしろそうでしたが今のところ、アメリカでは放送の予定がなさそうで残念に思っていたところです。でも、augustさんの記事を拝見して、すごくすっきりしました。
清さんの実母説も初めて知ったのでとても興味深く感じました。
清さんの存在がとても大きいので、そこが宮元信子さんでどっしりとぶれない感じがとてもいいですね。
Commented by august22moon at 2016-01-16 00:28
cinnamonさん、コメントくださってありがとうございます。
「すっきりしました」と仰っていただいて嬉しいです。

実写版で「清」さんをちゃんと見たのは初めてではないかと思います。
「坊っちゃんはよいご気性です」の声がとても優しくて、それでいて力強さもあって。
仰るとおり大きな存在だったと感じさせました。

私も数年前に再読してその面白さを再認識しました。
原作をお読みになったばかりですと、尚更実写版は見てみたくなりますよね。
いつかご覧になれるといいですね。


出会った本、映画の感想。日々のこと。


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