2016年 02月 10日
リドリー・スコット監督作 『オデッセイ』
R・スコットらしい壮大で重厚な見応えのある作品でした。
ジョーク満載ですが、GG賞のコメディ・ミュージカル部門にあたるほどではありません。
ただこれほど全編に悲壮感がないとのは珍しい。ワトニーがそうやって自分を支えていたのでしょうが。
宇宙人が襲ってこないとはいえ、「宇宙では、あなたの叫びは誰にも聞こえない」なんて絶望感もない。
しかも、海外作品に多い、家族へ思い馳せることが最後までない。妻がぁ娘がぁ~みたいなの皆無。
救出計画が決まった最後になって、両親への報告はキャプテンがしてほいいと頼むだけ。
予告編では妻と子供らしき映像が出ましたが、あれ別のクルーじゃないの。
宇宙飛行士ですからパニックにならない。これは鉄則で訓練も受けてるでしょうが、先ず何が出来るかを考える。
「火星よ、わが植物学の力を恐れるがいい」と啖呵切っちゃう威勢の良さが気持ちいい。名セリフ。
記録映像にサバイバル生活の一部始終を残すんですが、常に明るいのは、自分を残さざるを得なかったクルーたちへの思いやりととれます。
通信の第一声もクルーの判断を擁護していますし。
唯一の娯楽である、キャプテンが残した7~80年代のディスコサウンドばかりのCD。
あ~もうこんなんばっか聴いてたら死んじゃう!と飽きてきたところ、
プルトニウムを利用して移動用ローバーに暖房をつけることができてご機嫌で、ようやくまともな曲みつけたとかけるのがドナ・サマーの「ホットスタッフ」。
この時のマットの表情が傑作。
それぞれ状況に合った歌詞の曲が流れるんですが、希望が見えてきてお届けしますはアバの「ウォータールー」。
次々流れる古き良きディスコサウンドの、なんと無邪気な。
救出計画遂行中のNASAのBGMにはデヴィッド・ボウイの「スターマン」。これにはちょっと泣けそうでした。
エンドロールまで「I will survive」。これで終わるの?と思いきや、ちゃんと最後はシンフォニー調に終わりました。
最後までアイアンマンだ、宇宙海賊だと常に明るいワトニー。
96年の無人探査機を発見し、写真を送れることになって最初に送ったのがサムズアップでおどけた表情。
NASAのやりとりも可笑しくって、長官は「こんな写真じゃ、マスコミに公開できない!!」「トリミングすれば」。
救出計画が遅れると知ってヤケになって放送禁止の四文字言っちゃうので、NASAスタッフは「これ、全世界に配信されてるからー」と諌めると、更に連発。その音声は流さず呆れて苦笑するNASA職員の顔だけ映すというのも可笑しい。
若い研究者が地球に帰還途中のアレス3による救出計画を発案し、名付けて「エルロンド計画」。なにそれ?と問われて、ロード・オブ・ザ・リングですよと答える。
そこにボロミア(フライトディレクター役ショーン・ビーン)がいるんですもん。ちょっとニヤついちゃう場面です。
NASAの指示で、先に到着させているMAVに向かう為にローバーの屋根を開けて機材を取り付ける改造作業場面。
地上での作業と同時に映しているんですが、ローバーの屋根にドリルで四角形に穴を開ける→足で蹴り落とそうとする→落ちないのでジャンプして踏み落とそうとする→双方、屋根と共に車内に落下。
お約束の展開をあえてやる。爆笑です。
危機的状況も度々起こるんですが、そのたびにワトニーが言う「Luckly」。
幸いにも道は残されている。
最終的には鎮静剤も常用し始めるんですが、ジョークで自分を支え、ポジティブ志向で闘い抜いた末に、ようやく仲間の声を聞けて思わず嗚咽する表情が秀逸。
流石に最後には痩せて登場するマット。顔がちょっと若い頃に戻ったみたいでした。