2016年 04月 26日
ダルデンヌ兄弟監督作 『サンドラの週末』 wowow放映
本作でサンドラを演じるマリオン・コティヤールがアカデミー賞主演女優賞にノミネート。全米批評家協会賞などで主演女優賞を受賞。
70~80年代のロマンチックなアヴァンチュールでも描写したフランス映画みたいな邦題が、逆に効果的。
映画としては地味な主題ですが、サンドラが訪ねる同僚が抱える家庭の事情や思惑が、次はどんなだろうかと引き込まれてしまいました。
冒頭からサンドラがソファで昼寝をしているとこるに電話がかかってくるんですが、ちょうどおやつのタルトが焼きあがってオーブンのアラームが鳴る。
サンドラはただ昼寝してたわけじゃなく、ひとつの家事を終える度にだるさが襲って横になるしかなかったんですね。薬も服用しなくてはならない状態。
ようやく復調した途端に解雇され、抗って闘うためにも目覚めるわけです。
アジア系企業進出による経営難から人件費削減は避けられないところへ来て、サンドラの病気休職は千載一遇だったんですね。自ら泥をかぶることを避けて従業員自身に仲間の復職かボーナスか選ばせるというのが恐ろしい。
私が以前勤務していた職場でも、大病完治後の復職を約束しておきながら休職のまま解雇された仲間がいました。体調を案じるふりで追い出す経営者は珍しくないのかもしれない。
応援してくれる仲間が再投票と提案しては16人の同僚を説得する選挙活動しか方法が無いのでしょうが、みんな経済的にボーナスは必要だと分かっているから辛いところ。
罪悪感もあるところで本人に訪ねてこられては、とにかく申し訳ないと謝るほかない。
中には、とんでもないと断るひともいるけれど。
「息子の進学費用。妻も失業中」「リフォーム代」「新居に家具が必要」「内緒でバイトしても生活が苦しい」
そして「契約社員だから多数派に従わないと契約を切られる」。
誰もが余裕のない生活をしていて抱える問題があり、そこも痛感しながら生活のために頼まずにいられない辛さも伝わってきました。
遂には、主任が先回りして、断るよう釘を刺さしていたことも判明する。
日本人なら深々と頭を下げるところですが。
プリーズと両手を合わせたりなんてこともせず、涙に訴えることもしない。
社長と上司の横暴や理不尽に屈しないで欲しいと真っ直ぐ目を見て頼む。
それでも、ひとの生活を脅かしてまで戻っても針の筵かもしれない。罪深いことをしているのではと悩み始めるのも痛いほど分かる。
子供たちの朝食のパンを買ってくると出掛ける。その抜け殻のように、しかしある決意を持って歩く表情が痛切。間に合ってよかった。仲間が訪ねてくるのがもう少し遅かったら。
ラストは予想通りですが、社長の出した案に最初のうちは完全譲歩かと思いきや。
辛い闘いを戦い抜いたその事実だけで充分として、新たに歩き出さなくてはならない不況下の労働者の苦悩。
観客もそれぞれに自らのこととして考えずにはいられない作品です。
いつかの「W座からの招待状」で見たのですが、薫堂さん大怪我してお休みされていたんですね。
長友啓典氏曰く、よくぞコメディーにしなかった。確かにドタバタコメディーにもなりそう。
そこをあえて平凡なひとびとのどこにでもある問題として描いている。
小山さんの代打で濱田岳くん。「ひと月分だけと言われてます」。
長友氏ったら「慣れてきただろうから、このまま続けたら」と、今作に絡めたジョーク。
「薫堂さんの週末」になっちゃうじゃないですかっ