2016年 05月 12日
瀬々敬久監督作 『64 (ロクヨン) 前編』
ところが、原作で印象に残った部分がカットされてました。ちょっと残念。
蔵前が調べた、被害者・銘川が馴染みにしてい居酒屋主人の留守電の証言が無かったー!
糟糠の妻との思い出だけが泣かせ何処ろになってた。
そこ、秋川に響くかなぁ。両親に思い馳せでもしたのかな・・・
あれが銘川の侘しすぎる日々を表現して、記者クラブの面々の心も動かしたんだと思うんですよね。
普段口数の少ない蔵前が「本人にとっては重要なこと」と引く姿勢を見せなかったのも、三上が蔵前に「記者たちに取材の秘訣を教えてやれ」と褒めたのも、当夜のようすまで余すことなく調べたからじゃないのかなぁ
先に三上が、無言電話が娘からだと信じる妻・美那子に、松岡参事官宅・村串宅・美雲宅にも無言電話があったらしいから、よくある悪戯電話なのだと早くも説得していたけれど。
銘川宅の留守電の話題まで入れては、管内に無言電話が多すぎって懸念があって、どこにでもあることと片付けられる程度の数に収めておきたかったのかなぁ
蔵前役は金井勇太さん。いつもは怪しげな役柄が多い方ですが、控えめでオロオロするところが巧かった。ミニコンサートの取材ってこの方が言うと、らしくなさが可笑しい。
美雲の、三上への不満を募らせる溜息が強調されていました。
演じるひとの健康的で翳のない特徴でもありますが、「女であることはやめられません」に始まる真情をぶつける一連のセリフは、もっと食い下がってぶつかっていってもいいのでは。
最近はその肢体を活かして男社会で闘う役が多いのに、どれも緊迫感を感じない。男性以上に闘志を持たなくてはならないはずなのに。明朗快活で気持ちがいいし、多少甘くてもそこがいい時もあるんですが・・・。若い女優さんはそんなものですかねぇ
美雲の見せどころだったのになぁ
報告書を読み上げる佐藤浩市さんの芝居は、ただ涙しながら読み上げるというものでした。それもまた、刑事らしいのかもしれない。
報告書を読んで感じ入るところがあり、その死に涙するひとも遺骨の引き取り手もいない老人の、住まいや馴染みの居酒屋を訪ねてその孤独な姿を想像させたのは、ひとりひとりにそれぞれの人生があることの大きさを、もっと心に留めるべきだったと改めて痛感させた場面になっていました。
そしてそれが、雨宮の、幸田の、日吉の、それぞれの人生を想起させる伏線ともなっているようでした。
その涙を受けての、瑛太さんが堅い表情を崩さず薄っすらと涙ぐんでいる芝居は素晴らしかった。
センターに位置取って目を合わせない姿は1000UPくらいしてる手強そうな秋川でした。
この男の頑なさが解けていく後編が楽しみ。
雨宮家の仏壇前で三上が泣いてしまう場面ですが、ここまで感情を溢れさせるとは。
アドリブのようで手順があるように見えなかった。声にならず仏壇の方に向けて視線と手を向けるのはやりすぎに見えましたが、「止まってくれない」涙にうろたえているようすが表現されたとすれば、演じるひとの渾身が伝わって、見事だと思いました。
三上という男が背負っているものの重さを感じさせるには、これくらいは必要ということでしょうか。
キャスティングは総じて適役に見えました。
吉岡秀隆さんは、もう何を演じてもあの切なげな声と表情に引きつけられてしまう。香典袋の字にまで幸田の人柄が見える気がしちゃう。幸田の苦しみが尚一層際立つ気がします。
三上に会いに来たのはびっくりですが、覚悟を示した伏線ということですね。
永瀬正敏さんの雨宮が予想以上に素晴らしかった。
ドラマ版での段田さんが圧倒的で完成されていたので、もの足りなさを感じるかもと思ったのですが。
原作にあった「妻以外の全員を疑っていた」そのままに、電話を待っている時の怒りを湛えた闘う姿勢。きっと犯人を推定していたに違いない目の険しさ。
テレコの故障でうろたえ焦る背後の警察を一瞥すらせず、決然と受話器を取ったのには驚きました。
あれでは日吉は辛いなぁ。
窪田正孝さんも、全身から溢れるような緊張感。テレコを試動させる表情なんてこっちまで緊張。
しかし、辛そうに泣きますねぇ
この雨宮は、三上が仏壇の前で涙を流すのにも驚くことも、憐れみや同情を見せることもない。
「喫茶あおい」で、美那子を見ていることにしたんですね。美那子も軽く会釈しちゃってるように見えましたが、目を反らしたの?それ余計。捜査員が客として混じっていることを一瞬で見抜いたと考えると、この男の鋭さが感じられますけど。
老いてからも孤独な侘しさというよりも、憎悪が生きるよすがとなっている。
こうゆう雨宮も、後々面白いことになりそう。
伏線としての電話ボックスのショットももちろんありましたが、雨宮が電話帳(らしきものぐらいにしか見えないようにしている)をそっと棚の下へ避けるところも、何気ない仕草に留めたのは、スリリングな伏線。
綾野剛さんには珍しく抑えた演技が求められる広報官役ですが、上司三上と記者クラブとの間で波風を抑えようと、かなり必死に全身全霊で立ち向っています。この三上にはこれくらい激しく出ないと、という感じでバランスがよかった。
記者クラブが匿名報道と長官取材を了承した後の喜び方が傑作。バリエーション豊かですねぇ
64年当時は仄暗い映像で、当事者にとっての昏さが表されているよう。
昭和を送別する弔旗の並ぶ町の、なんと冥く冷たく寂しいこと。