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ガス・ヴァン・サント監督作 『追憶の森』

ガス・ヴァン・サント監督作 『追憶の森』_d0109373_12222593.jpgカンヌでの低評価やアメリカでの公開未定という情報から、いったいどうゆうところが問題なんだろうかと、先に感想を読みました。しかしこれがまた様々で、余計にどんな作品なのか予想がつかないまま見ました。

冒頭から、M・マコノフィーの虚ろな表情がアップにされますが、作品中、どアップが非常に多い。シルエット気味になってもどアップ。
バニシングポイントを見つめる遠い目で、虚ろに透き通った男の佇まいが抜群に巧くて惹き込まれました。
空港を東京の喧騒を茫然と歩く姿勢、向い席の乗客にもただならぬようすが分かる、ぬけがらの姿。
場所を決めて森の木々を見渡して、満足気に小さく頷く。
このマコノフィーの演技を見ているだけで満足できる作品でした。

新幹線の車窓から見える富士山が、ぼんやりとそこに在るのかも判然とさせないのは良かったと思いました。

渡辺謙さんの役どころについては、徐々に判明していく形なんですが、マコノフィー演じるアーサーは最後まで気付かない。
外国人同士という距離がそれを気付き難くしているんですね。
妻の名前が「キイロ」なんて言われても、そんな名前なんてキラキラネームでも存在しな・・・するか?
(だからオムレツ選んだの?)
タクミの発言はそれ以外にも悉く正体を示す伏線となっているのに、霊魂や煉獄を説いても「私は科学者だ」と一蹴するし、妻と子供の名前を教える時の表情は完全に意図を持っているんですがアーサー見てないし。
時には「ヘンデルとグレーテル」のヘンデルをハンサムと発音ミスのほうに気を取られさせている。
妻がタクミの姿を借りてアーサーに接しているのに、妻とはかけ離れた風貌の男にして、正体をぼやかしているんですね。
謙さん、日本人としては体格いいほうだし。華奢な男とか女性にしないんですね。ガス・ヴァン・サントだから?

アーサーは既に薬も飲んでいるのに、他者に邪魔されるのを避けて移動しないどころが声をかける。
ついさっき通って来た道が閉ざされていて愕然とする。望んでいたことなのに。
森から出ようとする過程で、寒さを避けるため他の自殺者の服を脱がせたり焚き火をする。
夜の寒さ。洞窟に流される。崖からの落下。チャンスはいくらでもあったのに。とりあえずこの男を脱出させようとではなく、もう生きることしか考えてない。
亡き妻が彼を、生へと導いて救っていたということなんですね。あなたは病室のベッドで死なないでとは言ったけど、ここじゃないし今じゃないし!とね。
また、彼の中にも生への未練がまだ残っていたのかもしれない。
その変化が自然に受け止められて、そこはマコノフィーの巧さなんでしょうね。矛盾には映らない。
テントに映るタクミのシルエットを、一瞬妻に見えてもいいのではと思ったんですが、ずっとタクミでしたよね?

日本人として見ると、様々「日本じゃない」感が必ず出てリズムを狂わせられるのですが。
ハイキングの服装でもない男が樹海の入り口らしき、鳥居のある駐車場前でタクシーを降りた時点で、運転手さんが通報しないのかな?バスは使えなかったか
遠景はロケされたようですが、タクシーの後部ドアが自動開閉でないので、もう日本じゃないと気付いちゃう。
ケン・ワタナベの助言も振り切ったのか、レンジャーの監視塔?に風鈴なんて下げてたのも見落としませんよぉ日本人はぁ

自殺に相応しい場所としてネット検索してすぐに青木ヶ原の樹海が出る。
日本人には名所として刷り込まれていますが、日本との関わりもないアメリカ人が、なぜそこに惹かれ選んだのか。そこがいまひとつ説明不足。その海原のような原生林の画像に惹きつけられたところは、その演技の巧さで理解できました。
でもそれだけでは、ずいぶんと短絡的決断に映ってしまいます。
肝心の切っ掛けをもう少し描いてもよかったのではないでしょうか。

樹海の中は携帯の電波もけっこう届くそうですし、コンパスも使えるそうです。
深部に入ると、昼なお暗い原生林というのがよく知られています。溶岩の上の森なので木の根が盛り上がっているし、倒木や折れ枝が多く、そこに苔がいたるところに生えている。
広大な森ですから、国道沿いや自然歩道周辺のように明るい場所もありますが、霊魂の漂う怪しさが削がれてしまったことは事実です。
しかし、誠実な演技がそれらを越えている部分は、確かにありました。

成仏するとそこに花が咲くって、漱石の「夢十夜」のようで、その表現は美しさが在りました。
可愛らしい蘭のような花も、安堵の頬笑みをもって迎えられそうではあります。



映画
by august22moon | 2016-05-20 23:51 | 映画 | Comments(0)

出会った本、映画の感想。日々のこと。


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