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トム・マッカーシー監督作『スポットライト 世紀のスクープ』

トム・マッカーシー監督作『スポットライト 世紀のスクープ』_d0109373_15572518.jpgようやく先週末から上映(こんなんばっかです)
待ちくたびれた観客で場内盛況で、最前列しか空いて無くて首が痛くなっちゃった。
こうゆうセリフ一語も見落としたくない作品は吹替版のほうがじっくり演技を堪能できますね。
字幕版しかないんで仕方ないですけど。

舞台は01年。この頃はまだ、紙媒体の資料を閲覧しに出掛けて行き、取材に奔走するところなど、『大統領の陰謀』の頃と基本的には変っていないですね。
お役所仕事に振り回され、ようやく閲覧すると既に手を回され廃棄されていたり。発見しても「コピー室は4時で終了」。
古いデータは、地下倉庫に保管された資料や以前の掲載記事の切り抜きなどを探さなくてはならない。
関係者への取材には録音ではなく、その場でメモしていく。
このメモ帳がですねぇ、スポットライト編集部が皆、A5サイズ位の縦型リングノートなんですね。
ウッド・スタインコンビは掌に収まるくらいのミニサイズでしたが、やはり縦型のリングメモ。
書き続け易いからなんでしょうね。
この、発言の全て書き漏らすまいとペンを動かし続け、しかも取材対象者の表情も見逃すまいとしてる。
この動作を見ているだけでも緊迫感が感じられました。

新任の局長バロン(リーブ・シュライバー)がいかにも、なんらしがらみもないという風貌。リーブ・シュライバーだとみんな同じになりそうなところ巧く造形されていました。ジャーナリストらしい中立性と、どんな小さな変化も見逃さない視線を持つ人物らしい。
スポットライトのメンバーもコントラストがよかった。常にあうんの呼吸で仕事しあっている雰囲気がその部屋にはありました。

被害件数と加害者神父の多さ、教会側にあまりにも都合のいい隠蔽同等の保護体制、弁護士の忠告どおりの妨害工作に、チームは愕然としていくんですが、リーダーであるロビー(マイケル・キートン)は、強大な敵に対して詰めの甘さがあってはならない失敗は許されないと、真の調査報道を冷静に考えている。
このあたりも、先走った特ダネ記事でフーバーを終身長官にしてしまったブラッドリー主幹の慎重さを彷彿とさせます。
と、見終わってから『大統領の陰謀』が過っていたんですが、後でロビーの上司に当たる部長のベンという人物のフルネーム確認したらなんと、ベン・ブラッドリー・jr なんですねぇ。あの主幹の息子。ああ、びっくり。
当初ロビーにこの取材を止めるよう忠告をしてくるし、レゼンデスの自宅へ取材の進捗状況を探りに来たりする。彼こそ既に10年前に告発があったにも関わらずロビーに小さな事件としてしか扱わせなかった人物。

で、早く掲載しなくては被害者が増えるばかりとレゼンデス(マーク・ラファロ)はさすがに抗議するんですが、これぐらいに抑えているところが良かった。
他のメンバーにしても、自宅の近所に教会の施設があることを知り、自分の子供たちにも危険が迫るかもしれないと不安に苛まれる記者もいれば、被害者たちの傷の深さを目の当たりにして、自らの教会への信頼との板挟みで悩む記者もいる。
しかしその苦悩や怒りを抑えて、忍びこむピアノの旋律が熱を冷ましていくようでした。

掲載もクリスマスは避けて年始にするんですが、スポットライトチームはどんな思いで聖夜を過ごしたのだろうと考えると暗澹たる気持ちになりました。

冒頭で、事件発覚後直ちに釈放され、まるで誤認逮捕のごとく平然と出て行く神父を警官が見送る場面があり、事件の闇の深さをさらりと静かに見せています。愕然とさせるイントロダクションです。
記事発表後も、教会側の反応は出さず、スポットライト編集部に、被害者からの電話が鳴り止まない中、マイケル・キートン演じるロビーがデスクの受話器を取って落ち着いた声で「This is SPOTLIGHT」と応えて幕。
カメラは俳優のアップに寄らず引きの映像で、劇的に終わらせない。
しかしその声は、宣言のように響きました。

全編、世界を震撼させるスクープを発表するまでの、記者たちの奮闘を、無闇に煽ったり、声高に提示することなく、抑制をきかせ、しかし真正面から見据えている。オスカーも納得の気骨ある作品でした。



映画
by august22moon | 2016-06-09 23:00 | 映画 | Comments(0)

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