2016年 09月 27日
李相日監督作 『怒り』
多用されるクローズアップが、それをより色濃くさせました。
山神の手配写真は3人の俳優さんの顔を合成したり、後ろ姿は明らかに3人が演じ分けて惑わせたりと工夫がなされていました。
しかも整形後の防犯カメラ映像や新たな手配写真は明らかに田代にして、観客を惑わせました。
3人とも左ききにしなかったのはどうしてなのかな?
そうすれば一層惑わせることができたのに。
田代・直人・田中役の3人はいずれも適役。その力量がいかんなく発揮され、正体不明の怪しさが見事に表現されていました。
特に、松山ケンイチさんが秀逸。彼が演じる田代がもっと見たかった。
いつもは濃いキャラクターに化けて意外性で魅せる松山さんが全て削ぎ落して、些細な仕草の中にも、息をひそめて生きなければならない悲壮感と緊張感を漂うように儚げに存在させていました。
松山さんが「田中」でも面白かったかも
愛子の父親・洋平役の渡辺謙さんも、娘に心を砕く姿が印象的。
背を丸めて立つ姿。混乱を振りほどこうと走るその必死な姿。アパートの窓を覗く悲痛な表情。
指紋採取の結果報告を聞く場面はガラス戸越しに声を聴かせず、くず折れる父の背中と号泣する娘の姿に坂本龍一さんの音楽だけが衝撃的に被るのには、胸を突かれました。
少ない登場ながらも高畑充希さんが目の動きだけで複雑な心情を表して巧かった。
しかし、公園の植え込みで倒れていたとだけしか告げていませんでしたよね?
あれ、肝心なこと言ってないような・・・
三ヶ所の出来事をリンクさせて場面転換させるところが面白かったです。
イヤホンから聴こえる音楽とかタクシーとかコンビニのお弁当とか
(直人のお弁当の棚の覗き方が可愛い)
辰哉役の佐久本宝くんは新人ながら、純朴な青年役が素晴らしかった。
小説では分からない沖縄言葉のイントネーションが耳に心地よくて、この青年の心の美しさが見えるようでした。
田中の言い訳を間に受けていない目つきも良かった。
原作を読んだ時に、あの壁の文字は、泉を守ろうとする辰哉なら消すはずと思いましたが、本作では消そうとしていました。
それならば、警察にもほんとうの動機が解って、最も深く傷ついたであろうこの青年の救いともなりますから。