2017年 05月 30日
ジョン・ウェルズ監督作 『二ツ星の料理人』
B・クーパー演じるアダムは、その傲慢さからパリでの仕事を追われているようなんですが、そこで何があったのかは登場人物の口から語られるだけで、しかも彼らの知る部分だけなので、劇中エレーヌが視聴者(観客)代表のように「パリでいったい何があったの?」と尋ねても、抽象的な反省の弁だけ。
恋人だったアンヌマリーや友人トニーとの関係も、会話から想像するしかない。
でも、パリで成功したシェフが、牡蠣の殻向きをしているというだけである程度の想像はできるし。
彼らの父親のことも説明が極力少ないのですが、トニーが満席になった店内で満足気に「父さん」と虚空に独り言つだけで、それは充分な気もしました。
荒れまくるアダムを人前では黙って決して諫めないし、アダムとの距離を一定に保とうとしているトニーという人物の描き方は絶妙。
ダニエル・ブリュームとてもよかった。
見るたびお顔の違うシエナ・ミラーも、調理中の視線の動かし方がリアル。
B・クーパーのアダムにしてもあんなシェフ居そう。料理家は芸術家だから、外見はスマートでも裏では厳しいでしょうね。
劇中の設定では、まだチームとして成り立つ過程のもどかしさがあったわけですが。
あんな大声で怒鳴りまくったら絶対フロアに聞こえてるって!
あの喧噪も無かったかのように新品同然に磨き上げられた厨房の美しいこと。
この清掃がまたいかに重労働であるかがきちんと描かれていました。
無論、それほど清潔な場所にするのは当然なんですけど。
いや~タイヘン。毎日大掃除なんだわ。
アダムの借金返済を迫ってたびたび訪れる怪しげな人物たちに遂には暴力振るわれちゃうんですが、それまでは裏口に現れるだけで店内にまでは侵入しないという、やたら紳士的なのが妙っちゃ妙。
過去の過ちから逃れきれないという足枷は、新しい店の成功を邪魔することにもならず。
問題はアダム自身にあるわけですから、そこ必要だったかなぁ
孤高のシェフがチームワークに目覚めて無事目標達成というハッピーエンディング。
エンディングの皆でまかないを楽しんでいる場面でも、アダムの笑顔を正面からではなく、斜め後ろから僅かに捉えるというのも、登場人物の背景を詳細に見せずに展開する今作らしい。
ミシュランスタッフって、ほんとにあの通りなのかしら。
今度こそ噂どおりなのがキターーって店中が一気に緊迫するところは面白かったです。
それがまた勘違いだったというのもね、ありそう。
スカウトされたデヴィッドが恋人にミシュランで星を獲得することの凄さを「一ツ星はいわばルーク。二ツ星は・・・アレック・ギネス。三ツ星はヨーダ」と説明すると、「ダースベイダーかもよ」とまぜっかえす彼女。
無理やり転がり込んで来たアダムをジェダイに例えないところが傑作。