2017年 09月 03日
ケヴィン・マクドナルド監督作『運命を分けたザイル』wowow放映
何気なく見始めて引き込まれた作品です。
85年にアンデス山脈のシウラ・グランデ峰西壁を下山中にひとりが滑落し生還した事故を、本人たちのインタビューと再現映像で構成しているのですが、この再現ドラマが実に見事でした。ロケ現場も含め、事実にかなり忠実ではないかと思われます。
アックスとアイゼンだけで垂直の氷壁を下る。
突然頭上から崩れ落ちてくる氷塊や雪庇。天候は荒れ、気温は零下20度。
厳しい場所だからこそ挑戦し甲斐もあるので、無謀と言うこともできないでしょうが。
事故が起こる前の登りからもう既に緊張の連続。
製作者側が彼らの名誉と悲劇に真摯に向かい合って共に戦ったのが伝わりました。
再現映像に登場する、サイモンとジョー、そしてリチャードの三人を演じる俳優さんたちは顔立ちがまったく似ていないので、本人たちが映るたびに、想像の切り替えが必要なほど。
それほど、再現に留まらない迫力がありました。
事故に遭ったジョー・シモンズ氏とベースキャンプの留守番役に雇われたリチャード・ホーキング氏は、その瞳にまだ少年のあどけなさを残した穏やかな顔立ち。
ホーキング氏は世界中を旅して周り、危険な目にも何度も遭っていた人物には見えないほど。
「彼らのファーストネームしか知らなかった」と温かい笑顔で語るので、出会って日が浅くても信頼して留守を託したサイモンとジョーの気持ちも分かるようでした。
エンディングで、帰国後サイモン・イェーツ氏が、滑落し重症を負ったシモンズ氏とを繋いでいたロープをやむなく切った判断について、ずいぶんと責められたことが記されます。
作中のインタビューで、イエーツ氏が硬い表情のままだった理由は、そこにもあったわけです。
その瞬間、いかに他の方法がなかったか。
どれほど切らなければ自分も滑落してしまう切羽詰まった状況であったか。
最も重要な瞬間は、非常に説得力のある映像でした。
決断の後、まるで亡霊のように、ジョーが落ちたクレバスを迂回して進む姿には、辛さが伝わってきます。
シモンズ氏は、ベースキャンプに辿り着いた時に先ず、サイモンの名を呼んだんですね。
「ヘルプ」ではなく。
それは、一刻も早く、サイモンを自責の念から解放したかったからと感じました。
そして、駆け寄ったサイモンに第一声、判断は間違っていないと擁護したのには、見るものにとっては救いになりました。
本人たちが映っているのですから、結果は最初から分かっているのですが、それでもシモンズ氏の生還劇には、固唾をのんで見守ってしまいました。