2017年 10月 26日
是枝裕和監督作 『三度目の殺人』
鋼太郎さんは所謂「ヤメ検」。熱血漢の若手弁護士と、戦績を上げるのを優先する冷淡な弁護士の間で、いかにも経験の豊富で柔軟という人物。
口調がね、違いました。
それでも、裁判所の入口で傘を閉じ階段を昇ってくる場面は惹きつけられました。
重盛の後ろを歩いてくるんですが、彼はまっすぐ前を、挑戦的な表情で歩いているんですね。
確かに弁護士にとっては戦場であるわけですし。特に今回の裁判では。
しかしその後方を歩く摂津には、そこが神聖なしかし残酷な場所であることが身に染みているんですね。重盛以上に。
その伏し目がちな表情に畏怖が見て取れました。
さすが。
その場面だけでも見ていて気持ちがよかった。
終盤の場面で、三隅と重盛が接見室で語り合っている時、ふたりを隔てるアクリル板にふたりの姿が重なって映るんですが、真実を法の下には晒そうとしなかった殺人犯と、弁護人の姿を重ね合わせたこの映像こそが、是枝監督が表したかったものなのだろうと思いました。
なにが真実なのか分からないまま。
もしかしたら死刑から無期に減刑されるかもしれなかったのに、それでも真実を語ろうとしない男に、娘が万引きをしても絶望することも狼狽えることもなく平然と店側の許しを得られやすい謝罪をするような冷淡な男が、真実を教えてくれと初めて感情的になる場面も印象的でした。
判事に裁判をさせず、自ら裁き、自ら判決を下してしまった。
頼られることが当たり前の弁護士としては、理解を超えているわけですね。
特に役所さんの巧さで、すべてが「藪の中」に葬られました。
全身全霊で凝視する咲江の前を通り過ぎる時の、彼女の存在すら否定しすべて引き受けすべて封印したあの横顔はゾッとさせました。